コロンビアで野生のサルに出会う
 5月に10日間ほど南米のコロンビアに出かけてきました。主な目的は首都ボゴタで開かれた「第13回国際エンリッチメント会議」への参加です。これは、飼育動物への環境エンリッチメントを推進する国際的な団体「Shape of Enrichment」(http://www.enrichment.org/)が主宰する国際会議で、2年に1回開かれ世界中の動物園関係者や研究者が集まります。今回、附属動物園部の藤森とともに、モンキーセンターにおける数々のエンリッチメントの取り組みについて紹介してきました。

会議の参加報告については別の機会に譲るとして、今回は現地で出会った野生のサルたちについて紹介したいと思います。せっかくコロンビアくんだりまで出かけて野生動物を見ないで帰る理由がない!ということで、会議後に「生息地研修」として、同じく日本から参加した計6名のメンバーと共にフィールド観察に行ってきました。
 モンキーセンター・アドバイザーの松田一希さん(中部大学)の研究仲間であるDr. Xyomara Carretero-Pinzonをご紹介いただき、彼女の研究フィールドを訪ねました。標高約2600メートルのボゴタから5時間ほどバスに乗り、南東方向に一気に山を駆け下りて標高数百メートルのサン=マルティンの街まで行きます。さらに郊外に1時間ほど車を走らせ、牧場の広がる平原に隣接した森が今回の観察場所です。常春のボゴタに比べると、いよいよ熱帯らしい蒸し暑さが感じられます。

 周囲には熱帯草原(サバナ)が広がりそこで牛や馬などの牧畜もおこなわれる土地なのですが、そこに一筋、アマゾン川の上流にあたる幅3メートルほどの細い川が流れ、その両岸に河畔林のようになって森が連なっていました。アマゾンのようにどこまで行ってもジャングルというのとは異なり、とても長細い森です。場所によっては、向こう側の “森の終わり”の草原が見えるほどです。そんな森でしたが、5種類のサルをはじめいくつかの野生動物がいるということで、2日間の短い観察期間でしたが、期待が高まります。


 初日は到着後にそのまま支度をして、すぐに森のトレッキングを始めました。

 植物を観察しつつ、サルの食痕であるかじりかけの果実などを追いかけて歩きはじめると、わずか25分で最初の出会いがありました。地面に落ちた果実を見ながら「サキとかティティとかこんな食べ方するんだよな」などと思ってふと森を見上げると、木の枝の上からこちらを見つめるティティと目が合いました。カザリティティ
Callicebus ornatus です。案内してくれたXyomaraさんより先に見つけてしまって申し訳ないな、とすこし思いながらも、皆に「ティティいたよ」と伝えながらすぐさまカメラを向けて写真を撮りはじめました。額や手は白く、背中は銀灰色で、顔の周りや腹が赤いとても綺麗なサルです。3頭くらいの小さいグループでしたが、ひととおり我々を観察すると、木の高いところから森の奥へのそのそと消え去ってしまいました。

 この日は、このあと昼食の時間までと、夕方から夜にかけての2回森を歩きましたが、サルではオオアタマオマキザル
Sapajus macrocephalus を一瞬見たくらいで、成績は芳しくありませんでした。個人的にはジャノメドリやベニヘラサギなどの美しい鳥を見ておおむね満足していましたが、他のメンバーの興味はそれほどでもなかったようです。

サルの食べかけと思われるイチジクのなかまの実


初めて出会ったカザリティティ


親子と思われるオオアタマオマキザル


オオアリクイとわたし(撮影:藤森唯)

 2日目は夜明け前の4時半に出発し、まだ真っ暗な森を歩きはじめました。これからねぐらに帰るヨザルと、起きて吠えはじめるアカホエザルがお目当てです。

 ヨザルは残念ながらはっきり確認できなかったものの、真っ暗な森に不気味に響くホエザルの吠え声をたどり、辺りが明るんでくるとともに姿を確認しました。爽やかな森をさらに歩き進め、前日よく見えなかったオオアタマオマキザルの群れや、コモンリスザルにも出会うことができました。

 さらに衝撃的な出会いとして、森から平原に出たところで目の前をオオアリクイが横切っていきました。直後にはもう1頭いて、もっと驚きです。動物園でよく見る動物ですが、こんなヘンテコな動物が本当に野生にいるというのを実感し、たいへん印象深いものとなりました。

 日本人の我々からすると、南米の森は「もっとも遠い場所」の一つかもしれません。わたしは実は南米は2回目で、2年前にはブラジルの森を同様に生息地研修として訪ねましたが、「その森に立っている」という感動は何度あっても強烈です。さらに今回は伊沢紘生先生や松田一希さんの文章の中でしか見る機会のなかったはずの「コロンビアの森で暮らすサル」に出会い、あらためて野生の素晴らしさ・美しさを感じました。この感動は、一人占めしてはもったいないので、市民の皆さんや動物園関係者にできるだけ多く伝えていきたいと思っています。そして、一人でも多くの人が現地に足を運んで野生を感じてくれたら、大成功です。
(学術部 キュレーター  綿貫 宏史朗)

2017年6月15日更新
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