霊長類学者、オーストラリアへ行く
『サルを知ることは、ヒトを知ること』。
でも、そもそもサルとはどんな動物なのでしょうか。それを知るためには、サルでない哺乳類と比較しなければいけません。
『サルでない哺乳類を知ることは、サルを知ること』。
そんな思いを胸に、霊長類学者である私は、霊長類が“いない”大陸であるオーストラリアをたずねました。コアラやカンガルーなどの有袋類や、ハリモグラとカモノハシなどの単孔類といった、“変わった”特徴を持つ哺乳類の生息地です。
卵を産む哺乳類であるハリモグラ。体中の針で外敵から身を守り、長い口吻で地中の虫を食べる。

(2017年3月、フリンダーズ・チェイス国立公園)


有袋類の母親はわずか数センチしかない未熟な赤ん坊を産み、おなかの袋の中にある乳首で子を育てます。単孔類にいたってはなんと卵を産み、孵化した子供をお腹から染み出る母乳で育てます。霊長類などの哺乳類が母親から丈夫な身体つきで生まれてくるのは、実は有袋類や単孔類とは違った“特別な”特徴なのです。

ユーカリ林を移動するコアラ。その姿はまるで私たちがよく知るサルのよう。

(2017年3月、フリンダーズ・チェイス国立公園)


オーストラリアの植生では、多くの樹木がユーカリです。コアラはこのユーカリの葉を好んで食べます。ユーカリ林を歩いて見上げてみると、はるか20メートル頭上にコアラの姿を見つけました。サルのように発達した指と手のひらで、枝をしっかりと握って樹上を移動し、ユーカリの葉を食べていました。まるでアフリカの森でサルを調査しているような錯覚を持ちました。木の上で葉っぱを食べるサルの姿が重なりました。

コアラとサルは祖先は違えど、それぞれの大陸で同じように樹上適応して進化した哺乳類なのです。かわいいだけじゃない、面白さを秘めたオーストラリアの哺乳類たちについて、“霊長類学者”にしかできない研究がありそうです。
(学術部 キュレーター 早川 卓志)

2017年7月10日更新
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