サルの赤ちゃん、ヒトの赤ちゃん① 小学5年生の理科室でのできごと

ここは犬山市内のとある小学校の理科室。扇風機が首を振りながら遮光カーテンを揺らす中、クラス全員がモニターの動画にくぎ付けになっています。映し出されたのは、力いっぱいいきんでいるラサ(ワオキツネザルのメス)の姿。飼育員が撮影した、出産の瞬間の動画です。双子を出産したラサは片手で先に生まれた赤ちゃんを抱きながら、うんっといきんで2頭目の赤ちゃんの頭が出ると、すぐにもう一方の手で羊膜に包まれてツルツルとすべる赤ちゃんを必死に抱き寄せ、舐めています。ほんの数分の出来事です。

小学5年生の理科に「動物の誕生」という単元があります。魚を育て受精卵の発生を観察し、人の発生について調べ学習をします。しかし人の発生に関する資料は模式図がほとんど。それならば人に近いサルの「本物」で学んでもらおう!ということで始まったのが、学校の教員とモンキーセンターの学芸員が一緒につくる理科授業です。


ニホンザルの子宮と胎児のプラスティネーション標本

犬山の子どもは4年生理科でモンキーセンターに来て、すでにサルを観察しています。 そこで5年生では前年度の観察を思い出しながら、学芸員が教室に持参した標本や動画などで学びます。冒頭でご紹介した動画を見たあとは、じっくりと標本を観察します。その一つが、ニホンザルの子宮と胎児の標本です。組織中の水分を透明なプラスティックで置き換える「プラスティネーション」という方法でつくられた標本は、見かけも質感も本物のまま。模式図ではわからない、へその緒の質感や子宮の内側の胎盤の様子まで、しっかりと観察できます。


動画もプラスティネーション標本も、インターネットからダウンロードしたり教材として購入できるようなものではなく、モンキーセンターに実在し、人生(サル生?)がある1頭の動物として実在している(いた)「本物」だという実感があること。そしてその重みを語る学芸員が授業に参加し、先生とともに授業を進めていくことが、子どもたちに本物の学びを届けるために大切なことだと考えています。学校に行くたびに、身を乗り出し目を輝かせる子どもたちの姿から、本物のもつ力を実感しています。
(学術部 キュレーター  赤見 理恵)
2017年8月10日更新
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