「骨屋」の骨コラム③ 耳紀行:奥の細道(下)
前回のコラム 耳紀行:奥の細道(上)はこちらから


狭鼻猿類では骨性外耳道があるために耳小骨の観察は困難です。 では狭鼻猿類以外の霊長類ではどうかというと、外耳道の部分が軟骨でできています。 骨標本を作るために軟組織を取り除いていくと外耳道もなくなるので、鼓膜のついている部分が露出します。そうすると、鼓膜の奥の耳小骨も露出するというわけです。

耳小骨はうまくすると頭骨に残ったまま標本になりますが、往々にして標本作成中に脱落してしまいます。 私が標本作りを担当していた十数年前は、骨標本を作るためにカツオブシムシという甲虫を飼っていました。 カツオブシムシの糞と抜け殻の中に落下した小さな耳小骨を回収するのにとても苦労した記憶があります。

日本モンキーセンターの所蔵標本で、オマキザル(広鼻猿類)の耳小骨の観察を試みました。 ノドジロオマキザルの標本のひとつ(Pr6094)で、耳小骨が残っているのを見つけました。 鼓膜のあった丸い穴(鼓室輪)から中耳をのぞくと、ツチ骨(写真1:M)とキヌタ骨(写真1:I)の長く伸びた突起が見えます。 これだけきれいに残っているのも珍しいので、この標本はこのまま保存しましょう。

別のフサオマキザルの標本(Pr5752)でさらに耳小骨の取り出しに挑戦してみると、 ツチ骨とキヌタ骨をはずすことに成功しました(写真2)。 しかしアブミ骨は、骨が引っかかって取り出すことができませんでした。 やはりアブミ骨はハードルの高い骨です。


【写真1】ノドジロオマキザル(Pr6094)の右の鼓室。ツチ骨(M)とキヌタ骨(I)が見えている。アブミ骨はキヌタ骨の下端と関節して、内耳へ向かってさらに奥に入っている。

【写真2】フサオマキザル(Pr5752)の右のツチ骨(左)とキヌタ骨(右)。数mmの小さな骨が聴覚を支えている。
(学術部 キュレーター 高野 智)

2017年10月25日更新
関連キーワード:骨、調査研究、おもしろい