テングザルの森で学んだこと

2回にわたってボルネオ島の霊長類をご紹介しました。今回は<特集>ということで、一歩踏み込んで、ボルネオで学んだことをご紹介します。

 

そもそも今回の研修ツアーは、「京大モンキーキャンパス」という連続講座の参加者のみなさんから、「講義を聞くだけでなく実際にフィールドに行ってみたい」という声が挙がったことから始まりました。連続講座の初回にテングザル研究の話をしてくださった松田一希先生にお願いし、松田先生のテングザル調査フィールドであるスカウ村を訪問する研修ツアーが実現したのです。

 

過去の記事でご紹介したサルたちをはじめ、テングザルやオランウータン、ゾウなど驚くほどたくさんの野生動物に出会えたのは研修の成果の一つです。でも今回学ぶことができたのは、それだけではありませんでした。


テングザルのメス

まずは松田先生の研究の裏側にある大変な苦労を少しだけ実感できたこと。多くの観光客が楽しむリバークルーズでの野生動物観察とは裏腹に、一歩森に入ると地面はぬかるみ、ヒルもたくさん。私たちは川岸から森の中に垂直に伸びる500mの調査路の一つを往復するのがやっとでしたが、このような調査路を16本も切り開き、毎日のように歩いてテングザルたちが食べる植物の調査をされた苦労は計り知れません。そして、それをサポートしてくれる現地スタッフのありがたさです。研究を理解してくれる現地スタッフのみなさんが、松田先生を囲んで親しそうに話をしている様子を見て、私たちが成果を目にする研究が、実はたくさんの方の理解に支えられていることを実感しました。

(松田一希先生の研究は、雑誌「モンキー」の連載「サルの住む森」で詳しく紹介されています。)


ぬかるみだらけの調査路。何度も足をとられる。


調査路沿いで待ち受けるヒル。

また、NGOの活動が森や人々の生活をどんどん変えていることにも驚きました。松田先生の紹介で訪問させていただいたNGOHUTAN」(詳しくはWebサイトへ)のオフィスと植林地では、アブラヤシのプランテーションとその労働者用施設だった土地に、今まさに森が育ちつつあるところを見学し植林も体験しました。笑顔で迎えてくれたスタッフのほとんどが現地の女性。昔は女性が外で働くことはほとんどなかったそうですが、交代で子守りを担当しながら、今ではNGOの事務から植林地のケア、私たちのような来訪者対応まで活躍しています。頭を覆ったヒジャブをなびかせてボートを操船する姿がとてもかっこいいのですが、そう言えば女性がボートを操船する姿なんて、10年にスカウを訪問した時には全く見ませんでした。

 

活動すれば状況は変わるし、理解者の輪が広がればもっと大きな成果が生まれる。書いてしまうとあたりまえのことですが、それを実感できたのがこの研修ツアーのもう一つの大きな成果だったと思います。




HUTANのみなさんと。


樹木が育ちつつある植林地。

ひるがえって考えてみると・・・モンキーセンターもたくさんの方に支えられているじゃないですか!サルたちのためにと野菜や果物を持ってきてくださる方、行動観察や資料整理を手伝ってくださる方、遠方からでも応援メッセージを送ってくださる方。そして、このサポーター専用ページを読んでくださっているみなさんも!! 今回の研修ツアーも、もとはと言えば講座参加者からの声のおかげで実現したものでした。

 

ボルネオで、日本で、このような輪がどんどん広がっていきますように。

そのために自分にできることからチャレンジしていこうと思います!



※本研修は科学研究費助成事業 JSPS-16K01205、および京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院の支援を受けて実施されました。
(学術部 キュレーター 赤見 理恵)
2018年2月15日更新
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