熱帯大都市の野生動物
その2 淡水のあるところにカワウソあり
 日本からはカワウソは(どうやら)絶滅してしまったようですが、シンガポールには野生のカワウソが生息しています。日本でもお馴染みのコツメカワウソではなく、ちょっとマイナーなビロードカワウソです。シンガポールでも一時は絶滅していたそうですが、マレー半島から海岸沿いに泳いで来たらしく、現在いくつかの家族群れがシンガポール国内に定住しているとのこと。

 もっともカワウソの出現頻度が高く見つけやすいのが、「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」。ここは熱帯植物が生い茂る植物園というか、あのカラフルな巨大エリンギみたいな人工樹のモニュメントがそびえ立つところ、といったらピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。都心部から海岸のほうにすぐのところでアクセスも抜群、しかも24時間年中無休、入園無料の庭園です。いくつかの河川が注ぐマリーナ湾に隣接し、園内にいくつかの池や小川があり、カワウソにはぴったりの環境のようです。

 訪問時には、幸運にも、子カワウソ6頭を含む20頭ほどのメンバーが大集結していまし た。ハスの繁る池を泳ぎ回り、魚を捕らえ、じゃれ合い、大騒ぎ。陽が高くなってお腹も満たされ、遊び疲れたら芝生で昼寝する、という気ままさです。観光客も地元民も多い場所ですが、人間のことなんかお構いなしで楽しそうにくらすカワウソのようすが観察できました。

 先述のとおりビロードカワウソは海を泳ぐこともできますが、淡水から完全に離れてくらすことはできません。つまり、ある程度の綺麗な水が常に流れ、じゅうぶんな魚がすむ河川環境がないと生きていけないということです。さらに、今はどちらかというと人間のほうが遠慮していますが、今後いつ軋轢(あつれき)が生じるとも限りません。こんな街中で野生のカワウソという意外さが面白いのですが、実はとっても微妙なバランスのうえにあるようです。

いかにも!な感じのカラフルな熱帯魚を食べる子カワウソ

人々がジョギングやサイクリングを楽しむ道路にも出てきて、好き勝手に過ごします。

(学術部 キュレーター 綿貫 宏史朗)
2018年3月10日更新
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