彼女の“幸せ”を考える

 フクロテナガザルのピーチ♀は2012年6月22日に生まれました。生後ほどなくして母親が育児放棄してしまったため、職員による人工哺育で育てられました。やむをえず人工哺育となった個体には、社会性をもたせるために「早期に親元に戻す」「養母にあずける」「同種の個体と同居させる」などの取り組みが重要です。しかし、当時の環境では困難だったようで、ピーチはテナガザルが持つ社会性をほとんど学ぶことなく育ってしまいました。また、不幸なことに、ケージの隙間から隣の部屋の個体に左腕を噛まれたことで上腕部から先の切断を余儀なくされ、隻腕になってしまいました。

 “人工哺育”と“隻腕”という2つのハンデを背負ってしまったピーチの為に、2015年頃から現在まで様々な取り組みをおこなってきました。まずは、テナガザルにとって重要な腕がひとつしかないため、脚を上手に使って移動する方法を身に着けられるようにリハビリトレーニングをおこないました。いまでは、隻腕とは思えないほど俊敏に動きまわれるようになりました。また、社会性を学ばせるために、2016年10月からはピーチの叔母にあたるイチゴ♀との同居の試みをおこなってきました。最初は短時間の同居からはじめ、徐々に時間を延ばしていきました。同居当初は戸惑っていたピーチでしたが、イチゴのやさしさにも助けられ、大きなトラブルはありませんでした。そして1年8ヵ月の月日を経て、ついに2018年5月8日からは終日同居ができるまでになりました。




 同居は成功しましたが、まだピーチも完全にリラックスできているわけではなく、体の大きなイチゴの動きに驚いて悲鳴をあげることも多々あります。また、ピーチとイチゴは現在エコドームの寝室内でのみ生活している為、ほとんど日光に当たる機会がありません。まだまだ彼女にしてあげられることはあります。なにをもって“幸せ”と呼ぶかは難しいところですが、今後も彼女の幸せのために頑張りたいと思います。
(附属動物園部 北園担当  石田 崇斗)


2018年6月20日更新
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