錦絵の猿 モンキーセンターの浮世絵コレクション
先日、無事に特別展「サルづくし」が終了しました。大小300点以上の民俗資料を並べたのですが、展示できないものも多くありました。猿二郎コレクションは5000点弱あるので、単純に数が多いから、というのも理由ですが、中には展示しにくいものもあります。

展示しにくい資料の1つが浮世絵です。額装されていないものが多い、ちょうどいい大きさの展示ケースもない、傷んでいる、などの理由が重なって、ほとんど展示できませんでした。展示するためには、裏打ちを直したり、額を作ったり、ということを考えなくてはなりません。とはいえ、標本室に眠らせておくにはもったいない資料です。せっかくなので、写真ですがこの場でご紹介してみましょう。

実はモンキーセンターは美人画、歌舞伎絵、武者絵など、さまざまなジャンルの絵を30点ほど収蔵しています。中にはなかなか有名な絵師の作品もあります。 日焼けのせいか、錦絵本来の鮮やかな色彩はあせてしまっていますが、これはこれらの絵が長い間展示され、多くの人を楽しませてきた証拠だと言えそうです。

どの絵も決して猿が中心に据えられているわけではありません。でもどこかに猿が顔を出しています。昔から、日本人のすぐそばに猿がいたことを示してくれる一品ばかりです。
上から揚州周延作 日本名女咄 更科 eb-3331
豊原国周作 五摂俳優揃 eb-3329
歌川芳員作 四天王白猿退治図 eb-3322


猿がまったく描かれていない絵もあります。左の浮世絵がそれです。資料サークルでの整理中にこの絵を目にした時には、これがなぜ収集されたのかが分かりませんでした。一見すればただの風景画。でも画題を見て納得しました。この絵は「猿橋」を描いたものだったのです。
(歌川広重作 六十余州名所図会 甲斐 さるはし eb-3335)

猿橋、とは山梨県大月市にある橋です(中央自動車道の猿橋バス停、といえば渋滞の名所です)。深い谷にかかっていて、橋脚はありません。両端から木を重ね、てこの原理で支えています。そのため、日本三奇橋の1つともされました。伝説では、猿が互いに体を繋げて橋を作った様子にヒントを得て作られた、と言われ、ゆえに「猿橋」というのだそうです。橋にまで猿があらわれる、日本人と猿の結びつきの強さを感じられる一枚です。
(学術部 キュレーター  新宅 勇太)

2019年2月28日更新
関連キーワード:調査研究、民俗資料