半島マレーシアのリーフモンキーたち
私は、学生として京都大学野生動物研究センターに在籍中、半島マレーシアの熱帯雨林において哺乳類の塩場(しおば)利用に関する調査をおこなっていました。調査地はマレーシア ペラ州、ブルム・テメンゴール森林地区(Belum-Temengor Rainforest Complex)というところで、タイの南端と接しています。

塩場とは、動物がミネラルを多く含む土や湧き水を摂取しにやって来る場所のことです。カメラトラップ(赤外線センサーカメラ)を塩場周辺に設置し、約4年半にわたって、塩場を訪れる動物の動画・画像を収集しました。カメラトラップは、動物がセンサーを横切ると撮影がはじまる仕組みになっています。動物が頻繁に塩場を訪れるので、2ヶ月カメラを置きっぱなしにしている間に32GBのメモリーカードがいっぱいになってしまうこともありました。

塩場で最も多く記録されたのはホエジカやサンバーといった偶蹄類ですが、アジアゾウやマレーバクなど個体数が比較的少ないと考えられる種も塩場には頻繁に姿を現します。そして、霊長類のなかにも塩場を利用するものがいます。ボルネオでは、オランウータンが樹上から下りてきて塩場の水を飲むことが報告されていますが、ブルム・テメンゴールの森では、同じく樹上性のリーフモンキー2種が塩場の水を飲みにわざわざ地面に下りてきます。

1種めはシロアシリーフモンキーです。手足の先は黒っぽいので「どこがシロアシ?」と思われるかもしれませんが、ももの外側の毛が白いです。動画1には母子が2組映っています。コドモとオトナで毛色のパターンが異なるところにも注目してみてください。2種めはダスキールトンです。目の周りに白い縁取りがあり、メガネをかけているように見えます。この地域にはカニクイザルやミナミブタオザルなども生息していますが、霊長類のなかで塩場の水を飲む様子が確認されたのは、葉食者であるシロアシリーフモンキーとダスキールトンだけでした。

数日だけですが、シロアシリーフモンキーとダスキールトンが同時に塩場を利用していたこともあります。並んで塩場の水を飲み、まるで相席しているかのようです。この2種が塩場以外でも一緒に行動することがあるのかどうかは分かりませんが、限られた場所にしかない資源を争わずに利用するような関係性であることがうかがえました。

(学術部 キュレーター  田和 優子)

2020年5月29日更新
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上: シロアシリーフモンキー(Presbytis siamensis)
下: ダスキールトン(Trachypithecus obscurus)