特別展のウラ話④:ムササビみたいな!?ヌートリア
現在開催中の特別展『カモシカと犬山の野生動物』。いろいろな中型哺乳類を紹介するコーナーで、いちばんはじめに展示しているのがヌートリアです。ヌートリアは南米原産のげっ歯類の一種で、カピバラやヤマアラシなどに近い動物です。もともと日本にはいなかった外来生物であることをご存知の方も多いでしょう。
犬山でも、数十年前はまったく見られなかったのに、今では河原などでふつうに見られるようになりました。特別展のパネルで使用している写真(以下)は、犬山城のすぐ裏手の、木曽川のほとりで撮影したもの。観光客や散歩中の方が行き交うすぐ近くでくらしているのです。



さて、今回の特別展では変化しつつある犬山の動物相を知り記録を残していくために、新規標本の制作もおこないました。その1つがヌートリアの標本です。標本にするためにヌートリアを殺すなんていうことはもちろんしませんが、農作物に被害があるということで駆除されたヌートリアを猟友会から譲り受け、標本化しました。制作したのは頭骨標本と毛皮標本です。

標本の制作では、とても頼りになる助っ人が。新宅キュレーターはモンキーセンターのイベントなどではボノボの研究を紹介されていますが、もともとのご専門はネズミなのです。さらに普段から霊長類の標本化にも携わっているので、技術はまさしくプロ!私が小さなヌートリアの毛皮標本に四苦八苦している間に、大きなヌートリアの毛皮を仕上げ、タヌキとハクビシンまでも進めてしまいました。

さて、そんな苦労もあって完成したヌートリアの毛皮標本は、冒頭でご紹介したヌートリアの剥製のすぐ上に展示しています。ヒゲもきれいに立ち、水かきのある後足は水かきをしっかり広げた状態で制作し、我ながらよくできた!と満足していたのですが、特別展会場で来園者の声を聞いていると、意外な一言が・・・

「ムササビみたい」

え!? ヌートリアがムササビ!?
改めて見ると、ヌートリアの毛皮標本は胴体の部分がふくらんだような形になっています。これが皮膜を広げて滑空するムササビのように見えるのでしょう。しかし同じように制作したタヌキやハクビシンは、ムササビのようには見えません。この違いは・・・ヌートリアのまるっこい体型を想像すれば納得ですね。


今では私たちのすぐ近くで生活するようになったヌートリア。まるっこい体型はかわいらしくも感じますし、農業被害に困っている方からは憎らしく見えるかもしれません。特別展ではヌートリアをはじめ、変わりつつある地域の自然を知るヒントをたくさん紹介しています。会期はあと1ヶ月を切りました。お近くの方はぜひお越しください。
ムササビに見えてしまうヌートリアは・・・解説をひとこと加えておくことにします。
(学術部 キュレーター 赤見理恵)

2020年9月30日更新
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