ベルベットモンキーのブルー 、新たな仲間との生活へ
 バックヤード担当者から、「ブルー(ベルベットモンキー♂)、アフリカ館で(どこかの部屋でだれかと)くらせないかな?」と相談をもらったのは昨年5月の終わりごろでした。
 ブルーは昔、アフリカ館でくらしていましたが、成長とともに群れに馴染めなくなり、ケガをきっかけに長い間バックヤードでベルベットモンキーのシン(♀)と一緒にくらしていました。しかしシンが持病の糖尿病の悪化で入院することになり、ひとりぐらしとなってしまっていたため、ブルーの新たな仲間づくりをすることになりました。
 もう24歳のブルー。決して若くはなく、かつ運動量の少ない生活を長年送っていたブルーの身体は筋力がなく、その上に脂肪がたっぷりついていました。そこで、まずはブルーの運動能力でも動き回れるように、とまり木の増設から受け入れ準備を開始しました。

 6月10日、ブルーがアフリカ館へ引っ越してきました。
 “仲間入りするのに良いかな”とあがった候補は、全部で3部屋(3群れ)。まずは、ショウハナジログエノンのハイチュウ(♀)と、ベルベットモンキーのクミ(♀)、ネン(♀)の3頭がくらす部屋から挑戦です。この群れは、ベルベットモンキーの群れに馴染めなかったクミ、ネンがハイチュウの部屋に引っ越してきたという経緯があり、“他個体を受け入れる”経験のある群れです。
 ブルーがケージに入った状態で、お互いに顔合わせ(“お見合い”と言っています)からはじめます。攻撃行動は見られないため、6月19日に短時間の同居を開始しました。こちらの予想どおり、最初に受け入れてくれたのはハイチュウでした。自ら近づき、ブルーをグルーミングする姿を見せてくれました。ブルーと同居するメンバーを変えながら日々調整をして、ネン、クミとの関係も落ち着いてきたかな、と思っていたのですが、ここから予想していなかった展開へ。おそらく原因はブルーのハイチュウへの接し方にあったと思います。ブルーは3頭に対する態度が相手ごとに異なっていました。クミのことはお気に入りのようで、あとを追い回し、追いついては交尾。いつも視線の先にはクミちゃん、といった熱の入れよう。ネンのことはまったく気にしない、まるで空気。ハイチュウには結構横柄な態度で、近づいてはグルーミングを要求。ハイチュウもグルーミング要求にこたえて、グルーミングをしてあげていました。でも、ハイチュウがブルーに対してグルーミングを要求すると、プイっとどこかへいってしまうブルー。そんなブルーも、バックヤードではさんを熱心にグルーミングしていたとのこと。サルの世界も複雑です。
 そんな日々が続き、ハイチュウがとうとう怒ってしまい、それにクミとネンが味方する形に。ケガこそしませんでしたが、暗雲漂う群れの雰囲気に、ブルーの群れ入れを断念することになりました。この時点で夏が本格化してきたので、暑い中での群れ入れはいったん中断し、ブルーはバックヤードへ戻りました。

 暑さが和らいだ9月22日、ブルーがアフリカ館に戻り、ベルベットモンキー3頭、ハンテン(♀)、ハツ(♀)、ハッピ(♀)のお部屋にやって来ました。この群れは他のオスとくらしていた経験もある群れです。ただ、まだ若い3頭、メスといえど攻撃力は最初の部屋に比べ格段に上がります。ここでもお見合い段階では攻撃行動は見られませんでした。お見合いだけではこれ以上発展しないな、ということで同居させてみることにしました。
 出会いがしらから大喧嘩、とはなりませんでしたが、ブルーはハツを気に入り、ここでも彼女のあとをつけまわすという執拗な行動を存分に発揮。そのせいで30分もたたずに3対1の大勢になり、我慢の限界がきたハツの号令とともに3頭に襲われかけたところで、間一髪、ブルーが寝室に逃げ込んで事なきを得ました。結局、ブルーの群れ入りは強制終了となりました。やはり、1対1の合流とちがって、群れの中に1頭だけが入るというのはなかなかハードルが高いです。

 最終部屋に選んだのは、サイクスモンキーのライト(♀)とクチヒゲグエノンのキャロル(♀)がふたりでくらしているお部屋です。きっとこの部屋なら入れるだろうな、と思っていたのですが、お互いに距離を保ってくらしている2頭のバランスが崩れちゃったりしないかなという不安もありました。多少揉めることもありましたが、3頭それぞれが他の2頭の存在を認め、11月9日から3頭での終日同居が続いています。
約半年がたち、運動量が格段に増えたブルーの身体は余分な脂肪が落ち、程よく筋肉がつき、アフリカ館へ引っ越してきた当初とは見ちがえるくらい身軽に動けるようになりました。

 ブルーの新たな生活は現在も続いていますが、群れづくりはこれで終わり!ではなく、これからもずっと続いていきます。
3頭の関係やその変化を観察し、関係がぎくしゃくしているときや、群れのバランスが崩れてきているな、というときには、誰かを一時的に分離してみるなど、群れの調整 をしながら、ブルーたちを見守っていきます。



左:ベルベットモンキー ブルー
右:サイクスモンキー ライト


手前:ベルベットモンキー ブルー
奥:クチヒゲグエノン キャロル

 さまざまな制限のある飼育下では、ヒトが介入しての群れづくりが必要になることも少なくありません。サル社会の複雑さに加え、個々の性格や施設の構造などを正しく把握・判断して進めていかなくてはいけません。マントヒヒ、アカオザル、バーバリーマカク、パタスモンキー、ニホンザル、と経験を重ねるごとに、自分の中の引き出しが増えていっていますが、まだまだ学ぶことばかりです。またひとつ、貴重な経験をさせていただきました。これらの経験を今後に生かすとともに、敏腕飼育員を目指し、日々精進してまいります。
 これからの3頭の関係がどう変化していくのか。アフリカ館へお越しの際は、ぜひ観察してみてください。

(附属動物園部 アフリカ館担当  辻内 祐美)

2021年1月21日更新
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