新施設には誰が?
2019年にクラウドファンディング「バックヤード改善計画」が始まりました。2020年10月末までに2回のご支援を募り、多くのみなさまのご協力により、2021年4月、介護もできる屋内施設「多目的ルーム」と、太陽の下で運動ができる屋外施設「おひさまエリア」が完成しました。完成後、内装の整備や腕出し防止対策など、スタッフで調整を進めてきました。そして同時に決めなければいけないことが、「誰を新施設に移動させるのか」でした。

候補は、
・ボウシテナガザル♂ドント
・シロテテナガザル♂イレブン
・ベルベットモンキー♀シン
・シロガオオマキザル♂ジュン
・ヤクシマザル♂タイマイ
・カニクイザル♂クロ
・カニクイザル♂ジョヤ
・カニクイザル♀ツル
・ニホンザル♀クリスプ
の9個体でした。

選定ポイントは、
・多目的ルームのケージは4つ
・そのうち2つは、高齢個体や障がいを持った個体の介護ができるように設計されている
・多目的ルームの各ケージからおひさまエリアまでは1本の通路でいける
・移動用のケージを使えば、多目的ルーム以外の場所からもおひさまエリアを利用することができる
ということです。

上記をもとに、まず挙がったのがドントでした。ドントは候補になっている個体の中でも圧倒的に高齢だったので、できるだけ余生を快適にすごしてほしいというのは、スタッフ共通の考えでした。おひさまエリアへの移動もすんなりできるように、ドントの引っ越しが決まりました。

次はイレブンです。うまれたケージから一度も出たことがないという経歴の持ち主。テナガザルは霊長類の中でも運動量が多いため、狭いケージでは本来の行動を出すことが難しいです。そんな彼にも少しでも広く高い場所で運動してほしいという思いがあります。しかし、ケージは室内にあり、日々の変化が乏しい環境で11年間くらしてきた彼は、変化にとても弱いです。いろんな環境の変化を楽しめるようになってもらいたいということで、引っ越しに挑戦することにしました。

3個体目はシンです。シンは高齢かつ目が不自由なため移動が得意ではありません。さら には糖尿病を患っています。一時期はインスリン注射をしてコントロールしていましたが、現在は飲み薬で制御できるほどになり、入院生活の必要はなくなりました。しかし、体調が悪化すれば採血をして血液検査をしたり、インスリン注射をしたりする必要がありますが、これまではそれらをクリアできる施設がなく、ずっと病院の入院ケージでくらしてきました。入院ケージは治療が必要な個体のために空けておきたいですし、なによりもシンには、より快適な環境でくらしてもらいたい、そして、シンのような個体にこそ利用したいと介護用ケージを設計したので、シンも引っ越し決定です。

これで4ケージ中3ケージが埋まりました。あと1つ、介護用のケージが空いていますが、 こちらはいつ介護が必要となる個体が出てくるかわからないので、必要なときにすぐ対応できるように、今は一時的な利用以外では使わないことにしよう、ということになりました。

そして2021年7月14日現在、ドント、イレブン、シンの引っ越しが無事に終わりました。 イレブンは引っ越し当初はだいぶ緊張していましたが、数日で当初の緊張感はやわらいできました。


左からボウシテナガザルのドント、シロテテナガザルのイレブン、ベルベットモンキーのシン。


さて、これで選定終了かと言いますと、実はもう1個体、候補に挙がった個体がいます。それはツルです。ツルもシンと同様、高齢で目が不自由で、糖尿病を患っています。糖尿病に関しては、今はまだ薬だけでなく、インスリン注射も毎日打たなくてはいけないので入院していますが、シンのように薬だけで制御できるようになったら、シンと同じケージでくらせるのではないか、という話になりました。ケージ越しのお見合いをしてみたところ、目立った敵対行動はなかったので、糖尿病の症状が安定したら、同居を目指す予定です。

残りの個体ですが、ジュンとタイマイとクリスプは、イレブンとドントが使っていたケージを改良したのちに、そこに入ってもらう予定です。タイマイは心臓病を抱えているので、心臓に大きな負担がかからないよう、無理なく生活してもらおうと思います。できれば、3頭とも移動用ケージを使っておひさまエリアを体験できるようにしたいと考えています。

ジョヤとクロは、成長にともないカニクイザルの群れの中でくらせなくなってしまったオスたちです。バックヤードの屋外ケージにいるヤクシマザルの群れ3グループを1または2グループに統合し、運動場を1室空け、空いたところでジョヤとクロの同居を目指す予定です。

長々と書いてしまいましたが、当面の予定はこのようなかんじです。

これらはあくまで “予定” です。今後、いつ介護が必要な個体が出てくるか、展示エリアでくらせなくなった個体が出てくるか、逆に今はバックヤードでくらしているけど、展示エリアでくらせるようになる個体が出てくるかわかりません。それでも、今回完成した新施設はそうした変動にも柔軟に対応できるつくりになっています。もちろんすべてに対応できるわけではありませんが、これまでよりもずっと対応しやすくなったのは確かです。ご協力いただいたすべてのみなさまへの感謝を胸に、今後も動物たちの福祉の向上に努めます!

(附属動物園部 バックヤード担当  藤森 唯)

2021年7月22日更新
関連キーワード:動物園、バックヤード、動物福祉