3年ぶりの大地
 日本では2020年1月以降、新型コロナウイルスが猛威を振るってきました。それによって日常生活の多くに影響が続いていることはここで改めて書くまでもありません。多くの方が実感されていることでしょう。一方でもちろん研究の現場にも大きな影響がありました。その1つが海外調査が困難になったことです。日本を含め世界各国で出入国に高いハードルができたことで、海外調査へ出かけることが難しくなりました。ですが、2022年に入ったころからようやくそのハードルも下がってきて、各地での調査が再開されつつあります。そして私自身も今年8月に、コンゴ民主共和国に調査に行くことができました。前回の調査が2019年の9月でしたから、実に3年ぶりの調査となりました。

 3年の月日は多くの変化をもたらしていました。首都キンシャサでは幹線道路の各地に立体交差ができていました。かつては交差点で大渋滞があったものですが、少しだけですが解消されています。ボノボの調査地に行ってみると、トラッカー(毎日ボノボを朝から夕方まで追いかけている現地スタッフ)の1人がスマートフォンを持つようになっていました。森の中でボノボの写真や動画も撮影していました。そして調査地の拠点にはWi-Fiが設置され、キンシャサのホテルよりもずっと良好な通信環境が得られるようになっていました。何か緊急事態があればすぐに連絡して対応がとれるので、安全管理の面からは大きく安心度が高まりました。とはいえフィールドに行ってなお、日本からの雑多な仕事のメールを見ることができてしまうのは、少し複雑な気分でしたが。

 肝心の調査の方ですが、調査期間が7日間、そのうち森に入ったのは6日、そしてボノボを直接見ることができたのは2日間にとどまりました。最大の理由は調査の時期にあります。8月はちょうど乾季の真っただ中で、森の中で果実が極端に少なくなっていました。こうなるとマランタシと呼ばれる背の高い(3m以上になることも)草の藪の中に入ってしまいます。このマランタシの葉っぱの付け根のところをかみつぶして食べていたり、藪の中の涼しい日陰で休息していたりするのです。こうなってしまうと観察はできません。藪の中からなにやら足音や葉っぱを引き抜く音はするけれども姿は見えず、というような時間が続きます。ボノボはそこにいて気配は感じられるのに、まったく観察できない、というもどかしい時間が続きました。

 それでも、さほど長い時間ではありませんでしたが、3年ぶりにボノボの姿を見ることができました。木の上で少ないながらも果実を食べているところ、小さな子どもが遊びまわっている姿、そして木陰でくつろぐ光景など、3年経っても変わることない穏やかな時間の中にいるボノボの姿を見ることができました。

 今回はどこよりも早く、サポーターの皆様に動画をお届けしましょう。3年ぶりのボノボの姿、どうぞお楽しみください。
(学術部 キュレーター  新宅 勇太)



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2022年9月1日更新
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