肢に障害のあるキツネ
毎年参加している白山ニホンザル調査。もちろん主役はニホンザルですが、雪山では足跡が残り見通しもよいので、いろいろな野生動物との出会いがあります。
今回は、あるキツネとの出会いを紹介します。
白山ニホンザル調査で毎年私が担当しているのが、オダニA、オダニB、オダニCと呼ばれている3つの群れです。尾添川の支流、雄谷川の右岸を主な遊動域としていて、特に上流方向にいるオダニAは、除雪された大きな道からはまず見つけることができません。雄谷川沿いの道は除雪されないため、冬はかんじき(ワカン)を履いて、ラッセルしながら歩いて調査に向かいます。


白山のニホンザル


調査2日目の2023年2月13日、初めて雄谷川沿いの道に入りました。橋が落ちてしまっているので尾添川を歩いて渡り、河岸を這いつくばるようにして道まで登り、雪道を歩いてやっと雄谷川が見えてきました。このあと、小さな雪崩跡を渡らなければなりません。その前にひと休憩しながら双眼鏡をのぞいていた時のこと。

背後でガサガサっと、雪が落ちる音がしました。木に積もった雪が落ちたのかなと思って振り向くと、“きょとん”といった感じでキツネが立っていました。距離にして10mもありません。私たちを見て逃げるのかと思ったら、まったく気にしない様子で歩いていきます。よく見ると歩くたびに首が上下します。どうやら肢に障害があるようです。
ひょこひょこと歩いた先には雪崩跡。立ち止まって斜面下を覗き込んだと思ったら、尾を振ってバランスをとりながら道から飛び降り、急な雪崩跡をスタスタと下りていきました。障害のある肢で、です。





そのあと私たち(2名で行動していました)は1人ずつ慎重に雪崩跡を渡りました。軽やかなキツネの足取りとは似ても似つかない、おぼつかない足取りで・・・。それでもこの日、オダニBかオダニAの群れの一部を発見。2日目にしては上々の成果です。

今まで何度もキツネの足跡を見てきましたが、この日から、同じ足跡でもより生き生きと見えるようになりました。毎年少しずつ見えるものが豊かになっていくのも、フィールドに通う醍醐味です。
(学術部 キュレーター  赤見 理恵)

2023年2月28日更新
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キツネの足あと