糖尿病という厄介な病気
ツルは2000年4月13日うまれのメスのカニクイザルです。いつからかという記録がありませんが、目が不自由です。数年前までは、同じカニクイザルの高齢メス2個体とくらしておりましたが、彼女たちが亡くなり、2019年6月ごろからはひとりで生活していたようでした。そんなツルですが、2020年12月16日、突然活力が低下し、入院することになりました。すぐに検査をしてもらい、そこで糖尿病を患っていたことが発覚しました。

ちなみに糖尿病とは、インスリンという血糖値を下げるホルモンのはたらきが悪くなり、血糖値が高い状態が続いてしまう病気です。ツルは2型糖尿病で、インスリンは出ているけど、効きが悪いタイプのようです。

ツルよりも先に、ベルベットモンキーのシンというメスの個体も2型糖尿病と診断されていました。シンは内服薬によって症状を抑えることができていましたので、ツルも同じように内服でのコントロールを目指し、治療が始まりました。最初はインスリンの注射を毎日打ってもらい、尿検査もして、糖の値の変化をモニタリングしました。もちろん食事は糖質控えめメニューに切り替えました。そのうち内服薬への切り替えにステップアップしましたが、これがどうにもうまくいきません。獣医さんが薬の種類や量をこまかに調整してくれますが、尿検査の糖の値が高い状態から下がりません。そうかと思うと突然低血糖になり、動けなくなってしまって、逆に急いで糖を補給させるなんてことも・・・。正直、こんなに大変だとは思っていませんでした。


そのような試行錯誤を続ける中、2021年4月にクラウドファンディングにより多目的ルームが完成しました。ツルは退院できるようになったら、この多目的ルームに移動し、シンと一緒にくらすことが決まっていました。内服での完全なコントロールが厳しいこと、糖の値が下がりきらなくても食欲や活力は安定していたこと、多目的ルームではシンとくらしながらも、簡単に部屋を区切れる仕組みにより尿検査が容易なこと、これらを踏まえて同年11月、多目的ルームに退院することになりました。シンとの同居をはじめてから、日差しを浴びたり、シンとグルーミングしたりする姿を見たときは、こんな時間が長く続くことを願わずにはいられませんでした。


その後も尿のにおいが強くなったり、尿の結晶化が見られたりするたびに尿検査や入退院を繰り返し、内服薬の調整も続けられました。その甲斐もあってか、最近はそうした症状も見られなくなり、食欲もモリモリ!これでちょっと安心♪と思いつつ、新たに気になることがひとつ。それはツルのおなかがぽっこりしていること。

太っているわけではなく、全体的な体型はどちらかというと細め。元気なことは元気なので、下手に麻酔をかけるのも負担になりそうでどうしたものかと悩み、内服薬で経過を見たりもしましたが、すっきりとは改善しませんでした。そんな中、ツルの定期注射(これは別のホルモン治療)がちょうど今年の4月に予定されていましたので、これを機に一度検査してもらうことにしました。

検査の結果は便秘でした。排便は確認していましたが、十分量は出ていなかったようです。そしてこの便秘の原因が、加齢によって腹壁や腸管の筋肉がちぢみ、緩んでしまっていることに加え、なんと糖尿病の影響もあるとのことでした。糖尿病によって大腸の自律神経の機能が落ちてしまっているそうです。血糖値の検査でも、悪い値とのことでした。糖尿病の方は最近安定していると思っていましたが、「めっちゃ悪い」が「悪い」になっただけのようでした。もちろんコントロールしきれないことは承知の上で、体調を見ながらできるだけ良い環境での飼育を優先してきたわけですが、ここにきても糖尿病か~と、唖然としてしまいました。

今は病院で腸の動きを促す薬の量や頻度を調整しているところです。一筋縄でも二筋縄でもいかない糖尿病。ツルと獣医さんと飼育スタッフみんなで、今後も糖尿病との良いつき合い方を探っていきたいと思います。

(附属動物園部 バックヤード担当  藤森 唯)

2023年4月30日更新
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