バーバリーマカクのチェン
 2024年6月29日に亡くなったバーバリーマカク、チェン(メス、1991年来園)についてお伝えいたします。

 アフリカ館からアフリカセンターにバーバリーマカクが11頭引っ越しをして1年が経過し ました。1年前の同時期に正式に採用され、アフリカセンター担当になった新人飼育員の私はその頃、バーバリーマカクの個体識別に悪戦苦闘していました。最初に覚えたのがチェン。高齢個体で座高が低く、小柄で、でもキリっとした目つきでとても特徴的な見た目でした。来園者さんや担当飼育員からは『チェン婆』、『チェンさん』と親しみと敬意を込めてそう呼ばれていました。

 そんなチェンの体調が悪くなったのが4月初め頃。鼻水が出て、食欲が落ち、むせることが多くなり、動きが悪く、前かがみのような姿勢がみられることもありました。その後獣医 に相談し投薬がスタートしました。最初はお薬の効果もあり、むせる回数が減ったような印象でした。ご高齢だし嚥下機能が下がったのかなとかいろいろ推測する日々。ずっと病気の症状が現れる訳ではなく、移動ができたり、怒ったりすることもありました。ですが、しばらく症状が変わらない日が続いたり、食欲の低下もみられたりすること、また、高齢でリスクを伴う麻酔をかけての検査を希望しないため原因の特定もできないことなど、さまざまなことを考慮した最善の方法が長めの効果のある注射での治療でした。そのほかにも寝室でほかの個体に取られずゆっくり食べられるようにしたり、好みの食べ物を用意したりと、できることをして飼育現場でも手を尽くしました。注射の効きと、状態に対処していくことでQOLをできるだけ下げず、なんとか食べてくれている状態が続きました。このままお薬と上手に付き合いながら苦痛を減らし、好きな物を食べて群れの中でのんびりと過ごしていって欲しいと思っていましたが、横になっていたり、移動時に休憩しながらだったり、ほぼ移動もしなくなったりと活力はゆっくりと低下していきました。2回目の注射から2週間後、バランスを崩して後ろに倒れたり、さらに伏せたままの状態が続いたりするのがみられたため、先輩が獣医に相談して次回の注射の予定を確認しました。相談の次の日の夕方チェンは横臥位姿勢のままになりました。獣医への報告ののち、体の冷えや床ずれから守るためにチェンの身体の下に毛布を敷き、埋もれて苦しくないように整えました。

 次の日の朝、私は先輩とチェンが亡くなったことを一緒に確認しました。チェンは昨日夕 方毛布を敷いた時とほとんど変わらない状態で、眠っているかのような最期でした。その ようすに悲しさよりもお疲れさまでした、というかなんとも表現の難しい感情になりまし た。亡くなる前日の昼間までは座った姿勢をとり、ふやかしたペレットを食べたような跡 もみられていたため、最期までチェンの生命力に驚くばかりでした。


 解剖の結果、死因は重度肺膿瘍でした。

 解剖に立ち会わせていただいた際、組織のいたるところがもろくなっていたり、肺の片方 が癒着していたりということや、逆に問題のなさそうな臓器の説明を受け、あらためてこの体で最期の直前まで動けていたり、ギリギリまで食にたいして興味があったようすを思い出し、驚きました。

 その後、2人1組の飼育作業の安全確認の中で先輩が発する、
「バーバリー10頭確認しました。」
の声にチェンがいなくなったことにあらためて気づかされ遅れて悲しみが込みあげました。

 本当は、今年の甲子猿にチェンを出す予定でした。最後になったであろう甲子猿に出した かった気持ちがかなわず残念でなりません。変更し、チェンの孫にあたるクー(メス)を紹 介しました。群れのほとんどがチェンの血縁である偉大な存在は亡くなっても、次の世代 へ受け継がれていくことに命の繋がりを感じながらあらためてチェンの凄さを思っていま す。

(附属動物園部 アフリカセンター担当  武田 直子)

2024年8月22日更新
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