「骨屋」の骨コラム② 耳紀行:奥の細道(上)
骨コラムを始めるにあたり、さまざまなやり方を検討しました。 たとえば、頭のてっぺんからつま先まで順番にひとつずつ紹介するというもの。 でも、たくさん語りたい骨もあれば、あまり語ることがない骨もあるし、関節を語るときには2つの骨が登場することになる。 1回の分量が制限されるコラムには向きません。 それに、つま先にたどりつく見通しがもてない。 悩んだ末にテーマを設けないことにしたのですが、アイディアの中で思いついてすぐに却下となったのが「50音順」です。

骨の名前を日本語で50音順に並べると、先頭は「アブミ骨」。 耳小骨と総称される、耳の中にある小さな骨のひとつです。 ツチ骨、キヌタ骨とともに鼓膜の振動を内耳に伝えるはたらきをしています。 人体では側頭骨を破壊しなければ直接の観察はできません。 最初に紹介する骨としてはハードルが高すぎます。

ヒトに限らず、狭鼻猿類(ヒトを含む類人猿とオナガザルの仲間とをあわせたグループ )では骨を壊さずに耳小骨を見るのは困難です。 しかし、キツネザルやロリスなどの曲鼻猿類や、真猿類でも中南米にくらす広鼻猿類では耳小骨を観察できる場合があります。

耳小骨を観察できるかどうかのちがいは、外耳道の構造によります。 外耳道とは、耳の穴の開口部から鼓膜までの、ちょうど耳かきでほじくる部分です。 狭鼻猿類では外耳道が骨のパイプでできており、これを骨性外耳道といいます。 この骨性外耳道があるために、骨標本になっても耳小骨は骨のパイプの奥深くに隠されて見ることができないのです。 (つづく)



ニホンザル(狭鼻猿類・オナガザル科)の頭骨。
耳の穴の開口部(矢印)は外耳道の入り口で、耳小骨は奥深くに隠されている。

(学術部 キュレーター 高野 智)

2017年10月10日更新
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