ヨジ、リハビリ中
ヒヒの城でくらすアヌビスヒヒのヨジという個体のお話です。 きっかけは肘の怪我でした。

縫合治療をした場合、経過良好だと10日ほどで治療が完了しますが、ヨジの場合、関節部分であったことと、怪我が古く化膿してしまっていたことで、なかなか傷が治らず、隔離用ケージでの隔離期間が続いていました。隔離用ケージの中では動きも制限されるため、長期の隔離は高齢(24才)なヨジの筋力の衰え具合、関節や背中のこわばりなどが心配でした。隔離用ケージ内では多少の動きは確認できますが、昇降運動などの大きな動きは確認できません。

ヨジの肘、ヨジのヒジ。おまじないのように唱えながら、投薬と傷口の洗浄の日々。ヨジの治療は約1か月かかりました。
1か月ぶりに隔離用ケージから寝室内に出たヨジ。やはりかなり筋力が落ちてしまっており、足取りがおぼつかない。すべるヨジ。登ろうとして尻もちをつくヨジ。それなのに結構アグレッシブに動くヨジ。

通常は隔離期間を終えたらそのまま群れに合流しますが、ヨジの群れ合流は、もう少し足取りがしっかりしてからにしてもらおうと思い、放飼場へは出てもらわずに、寝室のひと部屋を使ってしばらくすごしてもらうことにしました。ふらふらしつつ、ゆっくりととまり木を登り始め、寝室内に設置してある大型ケージ(高齢個体などの夜間分離用備え付けケージ)の上部へ登り切りました。
ヨジの様子を獣医師へ報告し、背中の硬直などによる痛みの軽減を目的に薬(消炎鎮痛剤)を処方してもらいました。落下の危険もあるため、下へ降りてくるように促しましたが、この日は降りてこず。降りてきやすいようにスロープを大急ぎで設置し、万が一落ちても大丈夫なように床面にクッションを敷きました。
薬が効いて降りてきていないかな、と願いつつ迎えた翌日、まだケージの上にいました。そして、改善するどころか昨日よりも動きが悪い。経口の投薬よりも効果の期待される注射と補液を檻越しで獣医師にしてもらいました。

また、ずっと同じ態勢だと褥瘡ができてしまうため、時折態勢を変えるように促しつつ、身体の下にもクッションを入れ、回復を祈るばかりでした。

が、翌日にも状態が良くなることはなく、ケージの上にいるヨジ。ほとんどねたきりのような状態になってしまったので、自力で降りてきてもらうことは断念し、人力で下へ降ろし、再び注射と輸液をすることに。

多少の保定は必要でしたが、無麻酔で採血まで可能なほどに動けない状態でした。自力で登ったのが信じられないくらい。
さらに驚かせるのがヨジ。3日目にしてようやく投薬・注射の効果が出てきたのか、注射が終わった直後から急に立ち上がり、歩き出しました。ホッとしたのも束の間、懲りずにまたふらふらと上へ登ろうとするので、急いで隔離用ケージへ隔離。

また同じ広さのケージでは二の舞を踏んでしまうため、隔離用ケージの3倍ほどの大きさの大型ケージ(激重)を準備。

普段は使っていないため外に置いてあるのですが、『このケージを運びたい』と呼びかけると、出勤している飼育員みんなが駆けつけてくれました。ヒヒの城に置けるスペースは無いので、バックヤードの隔離舎へ運び入れ、隔離用ケージに入っている状態のヨジを連れていきました。大型ケージへも自力で移動してくれて、一安心。
多少動けるスペースがあるので、リハビリを開始。

その後も徐々に回復してくれて、消防ホースの上に座れるまでになりました! 体格も毛並みも良くなり、足取りもだいぶ良いです。
大型ケージでのリハビリも経過が良かったので、ヒヒの城に戻る前に、もう少し広めの空間でリハビリをしてもらうために、現在は、適度な広さで昇降運動も可能な新アフリカ館でお世話になっております。

新アフリカ館へ引っ越した日も、まだ完ぺきとは言えない足取りで、動きまくり、登りまくる。徐々にリハビリをしてもらえるようにと、あえて上部のとまり木を外しておいたのに、お構いなしに檻をよじ登り、高いところからぎりぎりの筋力で降りてくるなど、かなり冷や冷やさせられました。わざわざ外したとまり木も大急ぎで付け直しました。動きすぎて、翌日に『身体が痛い』とならないかと心配しましたが、杞憂で済みました。ヨジの回復力に脱帽です。

いよいよ、ヒヒの城に戻れる日も、見えてきました!

今後、治療のための隔離が長期間に及ぶ個体の飼育管理方法を見直し、ヨジのような個体が出てきてしまわぬようにしていきたいと思います。
(飼育部 荒木 謙太)

2025年6月7日更新
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