常設展のウラ話② マンドリルのカサブブ
ビジターセンターの常設展に潜むウラ話をご紹介するシリーズ、前回はあまり目立たない頭骨標本をご紹介しましたが、今回はとっても目立つ、マンドリルの剥製標本をご紹介します。
 
ヒガシゴリラの剥製標本を左手に見ながらビジターセンターを奥に進み、左に曲がってすぐ目に入るのが、鮮やかな顔のマンドリルの剥製標本です。その姿は、現在飼育しているマンドリルのどのオスよりも大きく立派に見えます。顔の色は剥製標本制作時に着色されたものですが、きっと生前も鮮やかな色をしていたのでしょう。

この個体の名前は「カサブブ」。1959年10月25日に来園し1969年7月5日に死亡したと記録に残っています。体重は48kgもあったとか。同居していたコマチというメスとの間にたくさんの子を残してくれました。

カサブブは、なんと2回も雑誌「モンキー」の表紙を飾ったことがあります。1963年に発行されたモンキーNo.68では、まだ少し幼さの残る姿で写っています。1966年に発行されたモンキーNo.91では、大きく口を開けたカサブブのアップの写真が表紙となりました。当時JMC研究員であった小寺重孝氏が撮影した写真で、「カメラを向けると、大あくびをして鋭い歯を誇示したところです。」と紹介されています。
カサブブの剥製標本は、口を少し開いた姿で制作されています。あまり気に留める方はいませんが、実は口を開いた剥製標本は、他にほとんどありません。なぜでしょう?

前回もご紹介したとおり、JMCで死亡した個体は全て骨格標本としても保存されます。もちろん歯や顎を含む頭骨も骨格標本として保存され、剥製標本制作に用いることはできません。そのため、剥製標本はふつう口を閉じた姿で制作されます。ビジターセンターの常設展でも、口を開いているのはカサブブとそのすぐうしろのフクロテナガザルだけです。

では、カサブブの剥製標本はどのように作られたのでしょう?実は剥製標本のカサブブの歯は、本物ではありません。おそらく生前の立派な姿を再現するために、歯の部分はレプリカを作成し、口を開いた姿の剥製標本が制作されたのでしょう。常設展にお越しの際には、ぜひカサブブの大きさや鋭い犬歯に着目してご覧ください。

(学術部 キュレーター 赤見理恵)

過去のシリーズはこちら。
常設展のウラ話① 何かが違う!?オランウータンの頭骨
2018年10月12日更新
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