マンドリルのサムに快適な空間を!2
みなさまからご支援をいただき、この半年間でマンドリルの運動場に植樹をしたり、やぐらを組むことで空間をできるだけ広く複雑に利用できるようにしたりと、環境の改善をはかってきました。いつもご支援いただきまして、ありがとうございます。これらの取り組みは、森林でくらすマンドリルの本来の生活に近づけたいという思いの他に、マンドリル担当飼育員の切実な願いから実施しています。
それは、若いオスのサムが安心して群れの中で生活できるように、という願いです。 サムがくらす群れは、オス2個体、メス8個体の雌雄群です。αオスは、キンシャサ(2005年生まれ)で、立派な体つきをしているおとなのオスです。サムは2011年生まれの青年オスで、体格はキンシャサよりもふたまわりほど小さいですが、メスと交尾もしますし、自分の力を誇示するディスプレイをすることもあります。

野生のマンドリルは200個体を超える大きな群れを形成しますが、そのうちおとなのオスはたった数個体しか存在しないという報告があります。群れを構成するメンバーのほとんどがメスとこどもだというのです。おとなのオスどうしは、メスとの交尾の機会をめぐって争います。争いに敗れたオスは群れに残ることができません。その結果、あぶれたオスたちは、はなれオスとして群れとは距離をおいて過ごすことになります。


サムとキンシャサの関係は、圧倒的にキンシャサのほうが優位です。採食するときはキンシャサが近くに来るとサムは場所を譲ります。サムは、採食中いつもキンシャサの場所を確認しており、いつでも安全な距離をとれようにしています。サムが気をつけているので、キンシャサとサムの間で、揉め事が発生することはほとんどありません。しかし、メスたちが絡むと話は別です。メスとの睨み合いや採食場所の取り合いをするなどして揉め事があると、サムがメスたちに追いかけられてしまうことがあります。メスに怒られるとたまにサムも威嚇して返すことがあり、憤慨したメスがさらに猛抗議の声をあげると、キンシャサまでがメスに加勢してサムを追いかけ始めることがあります。キンシャサは逃げる相手に対してはしつこく追い立てることはあまりなく、またサムも今はまだ比較的身軽なので高い場所に逃げることができています。

2年前、まだ群れにいた青年オス(ニースケ、2010年生まれ)がキンシャサに大けがを負わせたことがありました。闘争の瞬間を見ていないので想像でしかありませんが、ニースケはキンシャサに追われて逃げ切ることができないと思って反撃に出たのではないか、もしくは、これ以上逃げたくない!と思って下剋上を決断したのではないかと思います。

これからさらに成長するだろうサムとキンシャサの間で同じことが起きないように、担当飼育員で話し合い、かれらが生活する空間を複雑になるように改善してきました。 これまでも消防ホースを駆使して複雑な空間をつくってきたのですが、実際に消防ホースを利用するのは体重の軽い子どもたちが主でした。サムがキンシャサに追われたときに高い場所へ避難するために利用することが多いのは鉄格子や丸太などの安定感のある構造物でした。

そこで、運動場に単管パイプで梁や柱を設置しました。梁の上に板をとりつけ、休息スポットも設けました。これまで地面以外の安定感のある場所というのは、やぐらや擬木(コンクリートで作成した樹木を模したもの)の上などに限られていたので、休息スポットが増えてそれぞれが好きな場所で過ごせるようしました。

当のサムは、新しく設けた休息スポットをあまり利用していないようなのですが、身軽なメスたちがおもいおもいに利用しているので、結果としてサムとの衝突の機会も減らすことができているのではないかと思います。特に、採食の時間にはそれが顕著で、10個体がそれぞれ距離を保ちながら食べることができるようになっています。



はじめに左奥に向かって食べものを探して歩くキンシャサ。次に右側でジャンプしてイモをとるサム。身軽なメスたちは単管パイプや消防ホースの高い場所で採食する。さいごにキンシャサもジャンプしてイモをとって食べる。

今後もオス2個体の関係をよく観察して、その都度改善をしていきたいと思います。
(附属動物園部 アフリカセンター担当  廣澤 麻里)

前回の記事はこちらから ⇒マンドリルに快適な空間を!

2020年6月23日更新
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