猿画の世界を探る① 特別展のきっかけ
今年2022年春、モンキーセンターでは特別展「猿画に映すイメージ」を開催します。モンキーセンターが所蔵する民俗資料や図書資料などから、「猿を描いた平面作品」、浮世絵や掛軸、色紙などを展示します。そこで今回から数回にわたって、特別展では紹介しきれない話を書いてみたいと思います。

初回は、この特別展を思いついたきっかけをご紹介します。私には画家の友人は何人かいますが、本業は哺乳類の研究者ですので絵画というのはまったく畑違いの世界です。そんな私が「猿の絵」を集めた特別展ができるのではないかと思いついたのは、いくつかのきっかけが続いたからでした。

1つ目は以前ご紹介した、新しい資料保管スペースを作っている最中の出来事です(記事はこちら)。新しく作った棚に図書を収める作業をしていた時、最後に開けたのが大型本の箱でした。古い地図帳などが入っていたのですが、その中には書籍もありました。その時はあまり気に留めず、とりあえず棚へ収めて終わりました。


その後、かつて発行されていた雑誌「モンキー」をめくっていた時のこと、ある記事に目が留まりました。それは、1959年に伊谷純一郎氏が書いた「128年前のサルの本(STORIA NATURALE)」というものです。そこには1830年代にイタリアで発行された霊長類の図譜が掲載されていました。決して正確とは言えない、不思議な姿をした霊長類の絵が掲載された記事です。この本が開梱した図書の中にあるのではないか、と探してみると、確かに大型本の中にあったのです。広げてみるととてもよく描けているものもあれば、いったい何を描いたのだろうと首をかしげるものもありました。何かの機会を作ってあらためて紹介したいと思ったのです。

Storia Naturale 全2巻 写っている絵はトクモンキーとみられる。
2つ目は、モンキーセンターのかつての職員の方から、1960年代のモンキーセンターの資料を受けとったことです。10箱近くあった中には当時を伝える貴重な写真のフィルムがたくさんありました。他にも各地で開催された研究会の資料や当時の出版物などもありました。そしてその中に、モンキーで連載されていた「モンキー天国」の原画3点があったのです。モンキー天国は1967年から20年、全94回にわたって連載された、挿絵画家の木村しゅうじ氏によるイラストです。最初は1枚の漫画が、中盤以降は1種のサルのイラストが描かれました。その最初期のイラストを発見することができたのです。


モンキー天国原稿

博物画とイラスト、まったく異なる視点から描かれた「猿の絵」に数か月の間に立て続けに出会いました。もちろん、継続してきた民俗資料の整理作業、そして「開運!なんでも鑑定団」に出品したときに掛軸や燐票(マッチのラベル)などを調べたことも影響しています。これまでいろいろな絵を資料の中から発掘してきましたが、一口に「猿の絵」とはくくれないほどその表現は多様で、さまざまな表情を見せてくれるものでした。今回の特別展では、多彩な猿の絵、そしてその背景にある猿へのさまざまなイメージをご紹介していきたいと思います。もちろん今回ご紹介した博物画もイラストも展示する予定です。どんな特別展になるのか、ご期待ください。
(学術部 キュレーター  新宅 勇太)

2022年2月28日更新
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