猿画の世界を探る② 資料を選ぶ
 特別展「猿画に映すイメージ」が無事に開幕しました。掛軸8本、浮世絵8点をはじめとして大小さまざま、古今東西の「猿の絵」が並びました。動物園らしからぬコレクションですが、他では絶対に見られない内容となっています。近くへお越しの際はぜひご覧いただければと思います。

 さて、今回は資料を選ぶ、ということについて書いてみたいと思います。展示できるスペースの大きさは決まっていますから、何らかの理由をつけて、膨大な資料の中から展示するものを選ばないといけません。そもそも残念ながら傷みなどがある状態の悪いものは展示できません。状態が悪いというのは博物館の資料としては残念な点ですが、猿二郎氏をはじめとする多くの人の目を長年楽しませてきたことの裏返しなのかもしれません。展示できる状態のものの中から、展示の方針に合うものをピックアップしていくことになります。

 猿を描いた色紙はおよそ50枚を所蔵しています。多くの色紙は有名作家の作品をもとに作られたものと考えられますが、残念ながら作者不明のものが多くありました。銘は添えられているので、判読して特定することは可能なのでしょうが力不足でした。こうした色紙は展示場に並べるだけなら十分ですが、それでは少し物足りなくなります。作者がどんな人なのか、どんな作品を作ってきたのかが分かると絵の見え方が変わってくるはずです。ということでできるだけ作者が分かるものを並べました。

展示しなかった色紙。いったい誰の作品だろうか。
 一方で、掛軸では作者不詳の作品も展示しています。掛軸は壁面を彩る重要な要素なので、できるだけ多くの作品を出したかったということがあります。そして猿猴捉月図のように明らかなテーマのもとで「猿のイメージ」を表現した作品は、今回の展示で不可欠のものでした。ということで掛軸では作者不詳のものも展示しています。

 何が描いているかが分かる、というのも資料選定のポイントでした。この点で外れたのがこの浮世絵です。川を挟んで左側には猿の軍団が、右には桃太郎らしき人物を中心に、犬と雉栗やハサミや魚などさまざまなキャラクターが対峙しています。猿蟹合戦など、猿が登場する昔話のキャラクターでしょうか。それがなぜ猿と争っているのかはよくわかりませんが、なかなか構図としては奇抜でおもしろい作品です。右の陣営ののぼりにはさまざまな文字が書かれていますので、単なる猿とその他の争いを描いたものではなく、何かの意味をもたせた世情を風刺した作品のはず、というところまでは想像できます。しかしそこから先を考えつくことができず、この資料を展示することはやめたのです。もしこれが何を風刺しているのかがわかれば、猿が選ばれた理由、この画に込められたイメージが見えてくるはずです。この謎解きはまたあらためてチャレンジする必要がありそうです。




(学術部 キュレーター  新宅 勇太)


猿画の世界を探る これまでの記事はこちら。
①特別展のきっかけ
2022年3月31日更新
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