ロベケ国立公園の動物たち;ゴリラ、チンパンジーの生息数

118日、ゴリラやテナガザルといった霊長類の約60%が、主に人間の活動が原因で絶滅の脅威にさらされている、という研究論文が発表され、注目を集めました。個体数の減少を招いているのは、狩猟や違法ペット取引、森林伐採、道路建設、採鉱、耕作といった人間の活動の結果だと指摘されています。それでは、実際の現場はどうなのでしょうか?

日本モンキーセンター国際保全事業部では、アフリカの大型類人猿を保護するプロジェクトの一環として、カメルーン・ロベケ国立公園の保全活動を支援しています。昨年3月に、2014年から2015年にかけて行われた、国立公園と周辺の野生動物の生息調査の結果がまとまり、写真のような冊子になりました(仏語)。

この生息調査の特徴は、ロベケ国立公園だけでなく、周辺に設置された地域コミュニティのための農耕ゾーンや生業狩猟ゾーン、また商業伐採と商業狩猟用のゾーンも対象に含め、動物たちの動向を把握しようとしている点です。野生動物の保護一辺倒ではなく、地元住民の生活向上にも繋がる、保護区管理を進めていこうとしているのです。

このため実際の調査には、WWFの調査員や国立公園のレンジャーだけでなく、選抜された村の若者たちも参加しました。基礎的なトレーニングを受けて、将来にわたって彼らの“裏庭”であるロベケの自然の価値を、自ら見極めていってもらおうという狙いです。

対象地域は934000ha。ロベケ国立公園と周辺の9つの生業/商業ゾーン全体が、201271日から、世界自然遺産「サンガ多国間ランドスケープ」のカメルーン国内域に登録されています。

2014-15年のライントランゼクト調査からは、ゴリラとチンパンジー合わせて、14170頭という推定が出ました。1㎢あたりにすると1.52頭です。実際には、ゴリラ、チンパンジーはグループで動くので分布に偏りがあり、最大値17201頭と最小値11612頭の間に、かなりの開きが出てしまいますが、全体像を捉える第一歩です。

カメルーンの他の保護区で行われたセンサス(カンポ・マーン0.48/㎢、2015年;ジャー鳥獣保護区0.69/㎢、2015年)に比べ、ロベケには大型類人猿がたくさんいると言えそうで、お隣のコンゴ共和国北部にある、オザラ・コクア国立公園の1.79/㎢(2013年)に匹敵する結果が出ました。

内訳はゴリラが1.45/㎢と、個体数にして13555頭を占めます。面白いのはロベケ国立公園の中より、周辺の生業/商業ゾーンの密度が全体に高いことで、森林伐採後の2次林に大量に生える、アフリカショウガなどの草が魅力になっていることがうかがえます。

これに比べチンパンジーは、ゴリラの10%程度で、0.17/㎢という推定が出ました。分布も、対象域の中心に位置するロベケ国立公園内が高く、人間の手の入った耕作地などは避けているようです。ただ痕跡のほとんどがベッドですので、1日の移動距離の長いチンパンジーが、実際にどのくらいどの辺りにいるのかを知るためには、長期の継続調査が必要です。

ひとつ言えるのは、チンパンジーが少ないのはこの地域の傾向のようで、もっと西に位置するカンポ・マーンの中のディピカー島(1.01/㎢、2015年)やジャー鳥獣保護区(1.26/㎢、2015年)はずっと高い結果が出ています。

過去の調査との比較で言うと、大型類人猿に関して2009年にロベケ国立公園内で行った調査があります。その時の結果はゴリラ・チンパンジー合わせて1.24/㎢。2015年の1.31/㎢と違いはなく、平和な暮らしが守られていると言えるでしょう。

実際、2007年から2015年までの9年間で、ロベケ国立公園や周辺で密猟者が逮捕され、押収されたゴリラやチンパンジーは11頭にとどまり、密猟のメインターゲットからは今のところ外れています。また、2002年から2004年にかけて、オザラ・コクア国立公園で深刻だった、エボラ出血熱の被害も免れています。

ただ懸念されるのは、この地域で年々、激しさを増しているゾウの密猟です。ロベケ国立公園内で取り締まり中に逮捕され、象牙や武器を押収される件数は、残念ながら2013年から急増しています。2014年と2015年には、1年で60本以上もの象牙が押収されました。

そして、とうとう昨年12月には、ロベケ国立公園のレンジャーに、密猟団との銃撃戦の中で犠牲が出てしまいました。国境を越えて暗躍する武装密猟団は、衛星電話やGPS、カラシニコフ自動小銃など高性能な装備で縦横無尽に動き回り、森林省の国立公園当局は大きな危険と隣り合わせで任務を果たしているのです。

今回の調査でも、ロベケ国立公園のゾウは2002年から2015年の間に、約2100頭から1020頭へと、半減したという結果が出ています。ゾウたちは行動範囲が広く、ロベケからサンガ川を越えて、中央アフリカ共和国やコンゴ共和国側に、自由に行き来するのも確かです。ただ密猟団は、南スーダンなどアフリカ中部の東から西へ、ゾウの分布を追って移動してきています。ロベケの北側でも、ゾウたちが中央アフリカ共和国からカメルーン側へ逃げてくるのが目撃されたりしていることを考えると、長年、政治的にも比較的平穏に暮らしてきたカメルーンの森が、最後の砦となっている可能性は否定できません。

こういった密猟団は、ジャングルの中で出合い頭に、ゴリラやチンパンジーを密猟することも厭いません。カメルーンではありませんが、お隣のザンガ・サンガ保護地域で、長年、人づけされてきたゴリラのグループの若いオスが、去年の6月、密猟者によって殺されていますWWF中央アフリカ事務所によると、過去18年間のゴリラ・エコツーリズム・プロジェクトの歴史の中で、初めての事件だったそうです。

このような悲しい事態が繰り返されぬよう、現場では国立公園事務所のスタッフが中心となり、地域コミュニティも巻き込みながら、保護の成果が上がるよう日々がんばっています。日本モンキーセンターも、類人猿に関する専門的なアドバイスや現場の活動の資金的バックアップなど、皆さんのお力もお借りしながら応援していきます。