南部ブータンの豊かな食生活と自然

4月19日から5月5日まで、ブータン南部のTraMCAランドスケープに行ってきました。
今回の旅の目的は、国立公園に住む人々と野生動物の関係を”探る”こと。

ブータン南部、シェムガン州ノルブガン村のばあちゃんと孫娘。
ここでは、後始末に困るプラスチック容器は使わず、昔ながらのバナナの葉っぱのお皿で食事をするなど、村を挙げて環境配慮に努めているそうです。

ブータンでは、国の政策としてはユニークともいえますが、国立公園などの保護区の中に人々が居住できる体制になっています。『「国民総幸福」は自然保護から』と、国土の52%を保護区に指定している”環境先進国”だけあって、そうやって保護区になった村の住民の生活向上を、国立公園当局が率先して請け負っているのです。

ブータン南部、ロイヤル・マナス国立公園。半分近くがMulti_use_zoneと呼ばれる居住区になっています。

マナス地域に広がるロイヤル・マナス国立公園でも、特に北東部のシェムガン県には広く人々が暮らし、自給自足に近い農業中心の生活を送っています。ブータンきっての豊かな自然を誇るマナス地域ですから、やはり畑荒らしなど獣害が悩みの種と聞いて、日本からもお手伝いできることがないか、話を聞きに回りました。

その1カ所、ノルブガン村は、最近になって自動車道路が開通した、マナス地域でも特に人里離れた山村です。先進的な仏教の修験寺ができる前は、人々は農業と狩猟採集の生活を送っていて、仏教が浸透するにつれて殺生を避けるようになった、自然と密着した暮らしが残る地域です。

「ブータンでも特に貧困対策が必要な場所」と、ずいぶん前から聞かされていたところだったので、大変なんだろうなぁと思い込んで出かけたところ、盛大な歓迎を受けてびっくり。伝統的なトウモロコシの地酒からはじまって、完全有機の地野菜と山菜とキノコのぜいたくなお膳で、自然の恵みが十二分に活かされています!

ノルブガン村でご馳走になった、”二の膳”。ゼンマイやワラビ、つくしを思わせる野草、キノコ、薬膳の極みのようなもてなし料理でした。トウモロコシのお酒は、なぜかアフリカの地酒を彷彿とさせるお味。

ところが、舌鼓を打ちながら、ロイヤル・マナス国立公園スタッフと村長さんの説明を聞いていると、
「これも悲しい歴史のたまものなのです。この地域は本当に長い間、隔離されていて、食べ物を手に入れるのに苦労する貧しい山村でしたから、こういった周りにあるもので飢えをしのぐしかなかったのですね。ぞの結果なのですよ、この料理は(お恥ずかしいことに)」

一つ一つが感動的で、ありがたくいただいた私には、謙遜が混じるとはいえ、逆に彼らの言葉の方が少々ショックでした。確かに手をかけて作った、凝った料理ではないかも知れません。けれども、今やこういった”野生の知識”が絶滅危惧種となりつつある世の中、いかに価値のある民間の知恵なのかが、当事者に実感されていない悲しい現実。

「国民総幸福の源は自然」という国是が、国民の皆さんの気持ちに寄り添うように、「失ってからでは遅い」ことを知ってもらうために、日本からすべきことがあるという、別の意味での発見もあった道行きとなりました。