Mbali Mbaba Misato(バリ・ババ・ミサト)
 三魔女、テケ王国を行く。

序章
 ”Mbali Mbaba Misato”、これが連載のタイトルである。聞きなれないこの言葉は、リンガラ語である。私たちがこれから語っていくことになる、ボノボのいる森があるMbali(バリ)地区を含むコンゴ民主共和国で、あまねく通用している現地の言葉なのだ。冒頭のMは発音しない。だから、Mbali Mbaba Misatoを、「バリ・ババ・ミサト」と読む。聞いてるだけで、なんとなく怖そうでしょう。怖いです。これは、リンガラ語と日本語の微妙なミックスで「バリババ三人娘」要するに、「バリの三婆(さんばば)」という意味なのである。「Mbali(バリ)に行った、三婆の書く連載」というタイトルなのであり、「三婆」って誰のことなのかというと、この連載を担当する、私たち3人、岡安直比(おかやすなおび)、中村美穂(なかむらみほ)、三砂(みさご)ちづるのことである。

 私たち三人は可憐な青春時代(本当に可憐であったかどうかは、周囲からの聞き取りが必要である)を過ぎ、魅力的な生殖期(本当に魅力的であったかどうかも、周囲からの聞き取りが必要である)も過ぎ、一昔前ならとうに、「ばあさん」の域に入る、50代である。いまどきの日本では、50代女性でも、アラフィフとか美魔女とかもてはやされる人たちもいないわけではないけれど、20代から、日本を出ていくことばかり考えて、アフリカとか中南米とかの熱帯地域で、化粧もせずにうろうろしていた私たちは、美魔女どころか、50代に入ると、本当の魔女の域に入ってしまったらしいことを、どうやって否定できるだろうか。

 2016年夏、三人は、このボノボのいる森がある、コンゴ民主共和国のMbali地区に行った。私たちは三人ともに、今は京都大学教授でモンキーセンター園長、と、本当にりっぱな人になってしまったMbali調査隊・隊長の伊谷原一氏が、定職もお金もない20代だった頃からの知り合いである。
 それをきっかけに、ご縁がつながり、この、Mbali地区に入ることになったのである。岡安直比は、ボノボやゴリラを追ってきた霊長類研究者で、世界自然保護基金などを通じてゴリラや野生動物の保護の仕事をしてきた。このMbaliというフィールドを京都大学に紹介したのも彼女である。中村美穂は霊長類研究を通じて、映像の世界のプロとなり、世界中を驚かせた「チンパンジーの子殺し」の映像を撮ったのちも多くの野生動物を撮ってきた映像作家である。私、三砂ちづるは人間の出産や性と生殖を専門とする公衆衛生・国際保健研究者で、もの書きでもある。「オニババ化する女たち」とかいう本も書いてきたので、「三婆」に入れてもらう資格も、十分にあると思う。

 私たち三人は、とても長い間、お互いの名前はなんとなく知っていたけれど、あまりゆっくり話す機会もなく、今回のMbali行きが、事実上の初対面同士であったとも言える。というわけで、この連載は、この50代「三婆」による、コンゴ民主共和国Mbali地区に入った経験にもとづく、リレー・エッセイである。

 「三婆」が書くことであるから、若くて精力に満ち満ちている人たちが書くことと比べたら、勢いに問題があるかもしれないし、人生の経験は、見ること聞くことに辛辣でシニカルな態度をとらせているかもしれないが、まあ、その辺はご容赦ください。普段はこんなアフリカの奥地に入ったりしないような年齢の私たちからの報告を通じて、モンキーセンター友の会の皆様に、ボノボのいるこの地区を身近に感じていただければ、とてもうれしい。
三砂 ちづる
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2017年7月7日更新
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