「バリ・ババ・ミサト」。
テケの地名と日本語とリンガラ語のミックスなのに、アフリカ中部の言語と日本語の相性の良さ(と勝手に私が思っている)のおかげで、すっきりカタカナ書きに収まった連載タイトル。脈絡があるようでないところが売り?で、軽く聞き流せば「バリの馬場美里さん」であっても違和感がないのがいい。
かれこれ30年近くリンガラ語に染まった脳みそに、この“チーム名”はものの見事にはまってしまって、冗談半分で名前が誕生して以来、離れなくなってしまった。ちづるさんが書いているように、私たち三人の出会いそうで出会わなかったウン十年の積み重ね、という伏線?があって今がある。コンゴ民主共和国との絡みを軸に、三人三様の「Mbaba」化プロセスが、この連載ににじみ出たらしめたものである。
で、私は来月、一足先に、Mbaliを再訪する。なじみの村人たちと、きっと「Mbali Mbaba Misato」の話題で盛り上がるんだろうな。ちづるさん、美穂さん、欠席裁判ご容赦! 次は三人そろって行きましょう。
そうは言っても、Mbaliの村人たちと話すって、向こうで名前、通じるの?
Mbaba=ムババ? ババ?
Misato(=三)がMbabaより後ろ?
なんて気にしてくれたあなたは、これはもうリンガラの世界に一歩も二歩も足を踏み入れている。ボノボ(ピグミーチンパンジー)観たけりゃリンガラ語。リンガラ覚えてしまえば、ボノボも観やすい。これ、世界で唯一、「最後の類人猿」と呼ばれるボノボを擁する、コンゴ民主共和国の常識。
何を隠そう、この原稿を書いている今、津田塾大学で「リンガラ語」の集中講義の真っ最中で、MMM結成がご縁で、ちづる先生に声かけいただいた。リンガラ語の「リ」の字も知らない若い人向けの話を準備するのは、四半世紀以上、実用一辺倒だったリンガラを、図らずも体系立てて振り返ることになり、大いに楽しんだ。面白い機会をありがとうございます。
ただその余波で、ここしばらくは「コンゴ民主共和国=リンガラ」と延髄反応してしまう、脳みそから抜けられそうにない。いっそ開き直って、ボノボの話の前に、コンゴ民主共和国に欠かせない、リンガラ語解説から入ろう…。
リンガラ語に限らず、私の行きつけのアフリカ中部の言語では、よく名詞の最初に読みそうで読まないンやムの音が入る。
MMMゆかりのMbaliは、地域を流れる川の名前を取ったテケ語の固有名詞だけれど、日本語にしようと思ったら「(ム)バリ」。この場合、ムは読まずに唇だけ「ム」と合わせて、そのあとに「バリ」という感じ。だから日本語なら「バリ」と表記してしまった方が、ずっと自然である。またMMMが所属する調査隊「Projet Mbali(プロジェ・バリ)」のカウンターパートである、地元自然保護団体Mbou Mon Tour(ボー・モン・トゥール)も、最初に来ている固有名詞「Mbou」は「(ム)ボー」である。口語中心で独自の文字を持たない彼の地の言葉では、単語の頭にMやNをつけなきゃ発音のニュアンスが出ないが、そのまま発声してしまうと地元では通じない。
さて、ここで賢明な読者の皆さまはお気づきと思うが、冒頭に書いた「すっきりカタカナ書きに収まる」というのは嘘八百で、Bではじまる「ババ」をリンガラ表記にしようと思ったら、頭にMをつける必要がある。だからイニシャルにするとBBMではなくてMMMとなって、まるでどこかの秘密結社のようなたたずまいとなってしまうのだった。
(岡安 直比)