三魔女、テケ王国を行く。

がんばろう
 この連載のタイトルに“テケ王国”と出てくる。Mbaliという地域がテケの人たちの土地なのである。テケの人たちの言葉はテケ語である。これは直比さんの前回の連載に詳しく出てくるリンガラ語とは、また違う言葉である。私たちとずっと同行してくれた、キンシャサ大学でリモートセンシングを専門にしているレイモンド先生の説明によると、リンガラ語というのは、コンゴ民主共和国の、ある地域の人たちの言葉であったものが、音楽などを通じて、コンゴ民主共和国全体の“Street Language”(要するに、家の外でみんなが話す言葉)となっていったものであるという。コンゴ民主共和国の人はだから、だいたい共通の言葉としてリンガラ語を話すけれども、それぞれの自分たちの地域の言葉はまた別の言葉であることが多いのである。

 Mbaliの人たちのいわゆる母語は、テケ語である。しかし結構幼い子供たちも含め、ほとんどみんなリンガラ語が話せるらしい。幼い頃から複数言語を繰る状況にあるから、異なる言語を学ぶことへのバリアーは低そうで、いくつもの言葉がしゃべれる人は珍しくないという。そしてこのテケ語もまた、日本語と結構似ているのだ。

 地元自然保護団体ボー・モン・トゥールは、フィールドステーションを持っていて、そこでかなりの人数が寝泊まりできるようになっており、伊谷隊長以下、私たち「三婆」を含む研究班メンバーはみんな、Mbaliではそのフィールドステーションに泊まる。イギリスとかフランスとか他の国のボランティアや研究者も泊まっているし、エコ・ツアーでやってきたドイツあたりの観光客が泊まることもあった。地元の人たちと混じり合って、ちょっとしたインターナショナル・コミュニティーが出来上がっている。
 ある日、パスツール研究所からやってきたフランス人人類学者クリストフと、地元の人何人かがバイクに乗って、「がんばろう〜」と言いながら、走り去って行った。アクセントも、発音も、まさに、私たちが、「いやいや、毎日大変だけど、がんばろう〜」というときのそれと、全く同じである。そこにいた日本人たちは顔を見合わせた。「がんばろう〜」って言ってるよ・・・。レイモンド先生によると、「“がんばろう〜”は、テケ語で“さようなら”ということです」。うわ、本当にそうなの、「がんばろう〜」は、「さようなら〜」、なの?

 そばにいた、地元の人たちに、興奮して、ねえねえ、あのテケ語の「がんばろう〜」って、日本で全く同じ言葉があるのよ、と話したことだった。

 私はリンガラ語ができないので、勉強中である。直比先生が津田塾で学生に授業をしてくれた「リンガラ語」講義資料をそっと横流ししてもらった。努力あるのみ。そんな私にも、リンガラ語は耳に優しい。「中西」、「中西」という言葉がよく聞こえるので、研究班に中西くんって、いたっけ、と思ったりしたが「ナカニシ」は、英語の「I think」つまりは、「私は思う」という意味なのだった。

 みなさま、本日はテケ語で「さようなら」とリンガラ語で「I think」を覚えましたね。似ている、というか、同じ発音なんですよ。
三砂 ちづる
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2017年8月12日更新
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