三猿の世界をめぐる④ 愛知で三猿を探す

特別展「三猿博 ~見ざる・聞かざる・言わざる大集合~」はまもなく閉幕します。愛知県にも発令された新型コロナウイルス感染拡大にともなう緊急事態宣言が発令されていますので、なかなか「最後に皆さん見に来てください」と言えないのが悩ましいところです。ここまで3回にわたってお届けしてきたこの「三猿の世界をめぐる」シリーズもひとまず最終回です。

特別展の一画には「庚申信仰」を紹介しているパートがあります。平安時代から少しずつ形を変えながら受け継がれてきた歴史の長い信仰です。江戸時代には各地に庚申講と呼ばれる寄合が作られ、60日に1日まわってくる旧暦の庚申の夜に集まって、前々回にご紹介したような掛軸をかけて無病息災などさまざまな願いをかけ、酒食をともにしたと言われています。現在庚申講は多くがすたれてしまいました。

しかしその一方で、庚申参りと呼ばれる庚申の日の特別な祈祷をおこなっている寺社は各地にまだ残っています。今回特別展を開催するにあたって、いくつかの寺社をめぐってきました。現代に息づく、「三猿を介した祈りの場」をここでご紹介しようと思います。

犬山の城下町には三叉路北向庚申堂というお堂があります。高札には北向きの庚申堂は珍しいと書かれていました。確かに寺社は南向きに建てられる場合が多いようにも思いますが、その理由にはまだたどり着けていません。立てられたのぼりには円と三日月を組み合わせたようなくくり猿の文様が描かれています。しかし、ここで三猿を見つけることはできませんでした。もしかしたら、堂内にはあるのかもしれません。犬山にはほかにも小さなお社の中に庚申塔が立てられていました。犬山市史などの文献を見ると、市内には他にもいくつか庚申塔があるようです。



犬山市の三叉路北向庚申堂(左)と小さなお社でみつけた庚申塔(右)

他にも愛知県内で庚申参りをおこなっている寺社を訪ねました。名古屋市緑区の鳴海には庚申山円道寺があります。ここでは庚申の日の午後と夜に庚申講の法要がおこなわれています。山門の額には三猿の彫刻、そして五連のくくり猿、さらに本堂の屋根の上にも三猿が鎮座しています。



豊田市には三光寺があります。金谷庚申として知られているこのお寺でも、朱塗りが鮮やかな本堂の屋根に三猿の像が鎮座していました。ここでは狛犬ならぬ狛猿が出迎えてくれました。





三光寺からの帰り道、Google Mapで検索してみると途中に「庚申塔」があるというので寄ってみました。場所は三好市にある三好公園の前の道路脇です。ここにあると言われなければ気づかずに通り過ぎてしまいそうな場所です。草むらの中にひっそりと、「庚申塔」と刻まれた柱が立っていました。今の時代でも大事に守られているようです。





名古屋市東区にある長久寺。この境内に建つ小さなお堂には、江戸時代前期の1668年に建立された名古屋市有形文化財に指定される庚申塔があります。天邪鬼を踏みつける青面金剛、そしてその下に三頭の猿がはっきりと彫られています。つまり、江戸時代前期には三猿と庚申信仰が結びついていたことを物語っています。

少し探しただけで、愛知県下でこれほどの庚申関連の場所をめぐることができました。さらにGoogle Mapを検索してみると、ほかにも「庚申堂」「庚申寺」とつく場所がたくさんヒットします。犬山の近く、小牧市にも庚申寺があります。街中にひっそり佇む庚申堂、あるいは寺社の境内に建てられた庚申塔がまだまだ各地に存在するようです。さらにいくつか回ってみましたが、外見からぱっとみて三猿を見つけられるところは多くはありませんでした。もしかしたら堂内に彫刻があるのかもしれません。もう少し本腰を入れて調べてみるとおもしろいのかもしれません。




特別展で庚申信仰を紹介するにあたっては庚申講にも参加してみたかったものです。この記事を書いている5月12日も、まさに庚申の日で庚申参りがおこなわれています。有名なものは日本三庚申の1つともされている大阪市の四天王寺庚申堂での庚申参りでしょう。大阪市の無形民俗文化財にも指定されているこの庚申参りは、護摩焚きなどの特別な法要にお参りをして、そのあと境内で売られるこんにゃくを、願いを込めながら北を向いて黙って食べる、というのが習わしだそうです。しかし人の集まる場所には出かけるのが憚られるご時世となり、参加することはかないませんでした。特別展を開催しての心残りです。またコロナ禍が落ちついた時には、あらためて庚申参りをしてみようと思います。まだしばらく、三猿の世界をめぐる旅を続けてみます。
(学術部 キュレーター  新宅 勇太)

これまでの記事はこちら
三猿の世界をめぐる① 1通の手紙からの縁
三猿の世界をめぐる② 三猿の掛軸
三猿の世界をめぐる③ "猿じゃない"三猿
2021年5月14日更新
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