三魔女、テケ王国を行く。

Ebobo(エボボ)
 ちづるさんも書いているように、バリの人たちの母語はテケ語だ。「がんばろ~」に象徴されるように、日本人の耳にも素直に馴染むアクセントも多い。それに多言語を操る常として、あまり意識せずに単語が貸し借りされるので(貸し借りしてるのは、一人の人間の頭の中だから、貸し借りって言うべきかは置いておいて…)、新しい言葉に接することに抵抗がない。そのときどきで使いやすい言葉は、どんどん取り入れる。

 ひょっとしてひょっとすると、Mbaliの人々の「がんばろ~(さよなら!)」も、日本語からの外来語だったりして、と、ここで妄想を膨らませてみる。というのも、Mbaliで活動するボー・モン・トゥール(MMT)は、ボノボ観察が目玉の、エコツアー開発を模索していて、まだ数えるほどだが、日本からのツアーを受け入れ試行したこともある。
乾季のMbaliの、のんびりした夕暮れ
 ツアーの終わりの、激励の「がんばろ~」の握手が、いつの間にかちょっとニュアンスが変わって、「さようなら」になって定着していたら、なんと楽しい置き土産だろう!! 同行してくれたレイモンド先生の教えに異を唱えるつもりはないが、こういう話題は、村の人たちと仲良くなるのに大いに役立つ。

 来週、現地に着いたら、訊いてみよう。

 なんせボノボを、「昔、村人のお金をくすねて、森に逃げ込んだまま、恥ずかしくて隠れてる人間の変わり身で、でも自分たちは寛容だから、その悪さは水に流して、今でも仲良くやっている隣人」と表現する、ひねりの利いた楽しい人々である。どんなエピソードが潜んでいるか、妄想に羽が生えるのは間違いない。

 それに、個人的には、なんでボノボが「エボボ」なのか、もう少し探求してみたい! ゴリラじゃなくて、ボノボ。これには、ほんとに一本取られた...。

 この河を挟んで、Mbaliとはちょうど線対象に西に広がる、コンゴ共和国のレフィニ鳥獣保護区に、20年前、私が面倒を見ていたみなしごゴリラたちが暮らしている。バテケ高原と呼ばれるこの小高いサバンナは、Mbaliの辺りから西へ、南北に長いコンゴ共和国のどてっぱらを貫き、ガボンの南をかすめて海近くまで続いている。そのほとんどの地域は、「エボボ」の生息域なのだ。

 熱帯雨林に負けず劣らず、バテケ高原は類人猿の食べ物が豊富らしく、「エボボ」だけでなくチンパンジーも、結構たくさんいる。そして、やっさもっさと遊んだり喧嘩したり、ゴリラ(エボボ)ともお付き合いがある。しかし、東端の「エボボ」=ボノボだけは、遠い親戚の人間たちが周りに散らばるだけで、類人猿仲間はいない。

 Mbaliとレフィニの様子は、上空から見ても実際に中に入っても、瓜二つである。そして、住んでいるのもテケの人々。大きな違いは、Mbaliがそれなり人が住み、コミュニティ・フォレストを介して能動的にボノボと共存しているのに、レフィニを含むコンゴ共和国のバテケ高原は、人口密度が低くてブラザビルの人々の「お狩場」と化し、かつてはいたゴリラまでとっくの昔に食い尽くされたこと。

 かれこれ25年、このバテケ高原を右へ左へ放浪してきたけれど、Mbabaの境地に至って、「エボボ」をキーワードに、またこの河のほとりに戻ってくるとは...運命を感じる。両岸を結ぶ「エボボ」ツアー、秘密結社らしく”Mission Secret(リンガラ読みでミッション・セケレ)”を企てようかと、ますます妄想が膨らんでいく...
岡安 直比
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2017年8月19日更新
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