「骨屋」の骨コラム⑥ 成長発達と骨の数
 子どもの頃は大人よりも骨の数が多いという話を聞いたことはないだろうか。ちょうど今の時期、犬山市内の小学校4年生に骨と筋肉の授業をしているのだが、小学生からもたまに質問を受ける。

 おおむね合っているが、ちょっと違う。正確を期すなら、大人ではひとつになる骨が、子どものうちは複数のパーツに分かれている、というところだろうか。複数のパーツで構成されていても、機能的には大人の骨とそう変わらない。骨が多い分、関節が多いなどという子どもがいたら困る。

 当たり前だが、受精卵から発達していく胎児には、初めのうち骨がない。そのうち骨化中心というのがたくさんできて、そこで徐々に骨が形成されていく。大人ではひとつになる骨も、最初は複数の骨化中心からスタートする場合が多い。成長にともなって骨化中心どうしの距離は徐々に縮まっていき、各パーツの間に骨端線(こったんせん)が残った状態になる。骨端線の部分には骨端軟骨が挟まっている。骨端軟骨が伸び、そこで骨が形成されることによって、骨は成長していく。つまり、成長している間は骨端線があり、骨は複数のパーツに分かれている。大人に近づくにつれて骨端軟骨はなくなり、最後には各パーツが癒合してひとつの骨になる。

 写真1にはニホンザルの上腕骨の例を示した。骨の端と書くくらいなので、骨端線は骨 の末端の関節や突起の部分にあることが多い。写真1右の成体の骨にも、骨頭(H)の下に骨端線の痕跡が残っている。写真2には骨盤の例を示した。股関節の部分に3つの骨の境界線がある。

 このように実例をみれば、単純に子どもは骨が多いというのは正確ではないとわかっていただけるだろうか。

 ちなみに、全身の骨にたくさんある骨端線だが、部位によって癒合する年齢がだいたい決まっている。白骨死体が発見されるような事件が起きた際、骨端線の状態は歯の萌出状況とともに年齢推定の重要な手がかりとなっている。

(学術部 キュレーター  高野 智)


これまでの「骨屋」の骨コラム バックナンバーはこちら。
① コロブスには親指がない?
② 耳紀行:奥の細道(上)
③ 耳紀行:奥の細道(下)
④ 「のど仏」の話
⑤ ゴリラの頭に隠された秘密



2018年6月27日更新
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写真1.ニホンザルの左上腕骨の前側を少し内側から見る。約2歳(左:Pr5334♂)と成体(右:Pr4987♂)の比較。若い個体では骨頭(H)、大結節(GT)、小頭(C)、滑車 (T)、内側上顆(ME)が別になっている。成体ではすべて癒合してひとつの骨になる。



写真2.ニホンザルの左の寛骨。約2歳(左:Pr5334♂)と成体(右:Pr4987♂)の比較。若い個体では寛骨臼(中央の丸い部分:股関節)に腸骨(IL)、坐骨(IS)、恥骨(PU)の境界線が見える。成体では完全に癒合している。