常設展のウラ話⑤ ゲラダヒヒの背景にある1枚の写真

 剥製標本の話ばかり続きましたが、今回は1枚の写真をご紹介します。

 剥製標本や骨格標本が並ぶ常設展。つい大きさや姿かたちばかりに目が行ってしまいますが、野生でどのような環境にくらしているのかもイメージしてほしい。そんな思いから、展示背景の壁面には野生の姿をとらえた写真を掲示しています。ゴリラの背景には深い森の中に座るゴリラの写真が、ワオキツネザルの背景には赤く乾燥した大地を歩くワオキツネザルの写真が、といった具合です。


乾燥した地域に生息するワオキツネザルと森林にくらすジェントルキツネザル の写真。

 どの写真も素敵なものですが、その中でも私がJMCに勤め始めて以来、ずっと気になっていた写真がありました。マンドリルやヒヒなどの剥製の背景にある、1枚の写真です。

 こちらを向いて、たてがみのように長い毛をなびかせながら座るゲラダヒヒのオス。その背景には、見たこともないような断崖がそびえ、そのむこうにも切り立った山々が脈々と連なっています。キャプションにはこうあります。「エチオピアの海抜4,000mの高地にくらすゲラダヒヒ」。海抜4,000mって、日本最高峰の富士山でも3,776 mだと言いますから、とてつもない高地です。それに、この写真を撮影している人はいったいどんなところに立って写真を撮っているというのでしょう。少し色あせたこの写真の前に立ち止まると、異世界に吸い込まれるような、足元にふわっと風が吹くような、そんな不思議な魅力のある写真でした。


ゲラダヒヒの剥製標本の背面にある写真。少し色あせてはいるが、不思議な魅力がある。

 どんなめぐりあわせでしょう。昨年10月、私は本当にエチオピアの高地に立っていました。写真の前で感じた風は本物になり、目の前でムシャムシャと草を食べるゲラダヒヒたちの長い毛をゆらしていました。断崖絶壁は写真のまま。勇気を出してのぞき込んだ私の足元を、ゲラダヒヒの子どもたちはとっくみあって遊びながら転げ落ち、平気で戻ってきました。


自分の目で見たゲラダヒヒのくらすエチオピアの高地

 不思議なかれらのくらしぶりや、想像を超える生息環境にふれた感動は、ここに書き始めたら筆が止まりません。おりしも1月20日(日)に「ミュージアムトーク」に登壇する機会をいただいたので、そこでたくさんご紹介したいと思います。ぜひお越しください。
(学術部 キュレーター 赤見理恵)

過去のシリーズはこちら。
常設展のウラ話① 何かが違う!?オランウータンの頭骨
常設展のウラ話② マンドリルのカサブブ
常設展のウラ話③ 大きな鼻のテングザル
常設展のウラ話④ どこから来た?立派な体格のニホンザル
2019年1月17日更新
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