三魔女、テケ王国を行く。

Mbaliの四季
 さて、いよいよ2017年も師走入り。モンキーセンターがある犬山に、干支でご縁の戌年の到来である。寒さが募るに従って、行く年来る年のやり繰りに心奪われるのが日本の常だが、南半球に暮らすMbaliの皆さんは、1年で一番暑い季節に新年を迎える。まだ現地滞在したことはないが、隣国コンゴ共和国でのNew Yearの想い出は、汗だくのどんちゃん騒ぎとともによみがえる。

 逆にいえば、「バリ・ババ・ミサト」の旅のこよみ、美穂さんの順を追った記事の導きで、いよいよ三魔女Mbali到達に近づいた2016年8月9月は、寒い大乾季の最中である。アフリカ大陸の奥深く、日格差の大きい現場の気温は、夜は20℃を切るような急降下で、シュラフなしには眠れない。今年はそれでも寒くて、私は風邪をこじらせて体力を消耗した挙句、とうとうマラリアまで発症してしまった…。

 熱帯の気候は、日本と違い雨季と乾季の繰り返しだが、そこにも実は四季がある。アフリカ中部の場合、太陽が頭上を越えて、北へ南へ行ったり来たりするのにつれて、雨季も乾季も大と小が繰り返す。Mbaliでは6月中旬から9月中旬まで3カ月続く大乾季は、もっともお日さまの温もりから遠い季節で、赤道直下といえども侮れないのである。

 大本命トロピカル、いつも雨が降っていて、高温多湿のジャングルがすき間なく広がるイメージのコンゴだが、実際は自然も動物も、ヒトも季節感を持って暮らしている。“冬”の大乾季はほとんど1滴も雨が降らず、気温も下がって動きやすくなるから、土木工事の書き入れ時である。Mbaliでも、親戚の手を借りて、家を修繕したり新築したり、新しい畑を開墾したり、男たちが忙しい季節だ。さらに、コンゴ河畔のTshumbiri(チュンビリ)港に通じる橋を直す、お上の人夫に借り出されて、自給自足の村に現金収入が入る季節でもある。

(ところで大乾季を8月だからと夏と呼ぶのに抵抗があって、ちょっと調べてみたらやっぱり冬が相応しい。でも “夏”と “summer”じゃ、やっぱりニュアンスが違うらしくて、summer solsticeは北半球と南半球じゃ正反対だけど、日本語だと南半球では「冬至前後に夏」!?がやってくる。気象学と天文学の定義の違いとか、日本が太陰暦から太陽暦に変わったときにずれたとか、言葉の使い方にはいろいろ長ーい歴史の深ーい訳があるらしい…)
 そして、“おうち”を積んだボノボII号から観た、雨季のはじまりを間近に、サバンナを焼いて新緑の訪れを期待する、何本もの“のろし”! 実はあれ、われらがテケ族の本拠でもあり、エボボを擁するバテケ高原の風物詩である。雨季のあいだに生い茂ったエレファントグラスが乾ききり、絶好の焚き物になるものだから、人々は「歩きやすくなるし」火のついたマッチを投げ込む。そうやってあちこちで入れられた火から巨大な上昇気流が巻き起こり、細かい灰が舞い上げられて一転にわかにかき曇り、土砂降りの通り雨なんて目にあうこともある。

 ところが最近は異常気象続きで乾燥が進んでいるのか、こんな野焼きの勢いも半端なく、防火帯の役目を果たしていた川辺林まで黒焦げなんて風景を見かけるようになった。20年ぶりに訪れた隣国のレフィニでも、国立公園管理当局がコントロールしていると聞いたが、エボボたちが大好物の黄色い実をつける、野火に強いサバンナの灌木がほとんどなくなっていた。
コンゴ共和国のバテケ高原でで燃え広がる火入れ(1996年)
幅10キロメートルまで及ぶと、もはやコントロール不能...

 世界第2の広さを誇るコンゴ森林の、辺縁をおおうバテケ高原。かつて、火入れは草原の更新を促し、動物たちのエサも増えると奨励されたこともある。でも、人が増えたり気候が変わってきたり、コントロールも難しくなって、とうとう熱帯雨林が消滅する危惧が出てきた。現地WWFでも、野放図な火入れは止めるよう働きかけているが、急に森が丸裸になるわけではないし、前とは真逆な説明になかなか納得してもらうのは難しい。Think Globally, Act Locallyの悩ましさ…。
岡安 直比
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2017年12月6日更新
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