三魔女、テケ王国を行く。

マレボ空港
 キンシャサからマレボ空港に向かうセスナに乗っていたのは、モンキーセンターの若きスタッフ、新宅さん、連載にすでに何度も登場している、アジア経済研究所のベテランアフリカ研究者、武内さん、そして、このチームの力強いサポーター、キンシャサ大学のリモートセンシングの専門家、レイモンド先生、そしてベルギーからやってきた若いボランティアのピエール君。キンシャサの町外れ、実に怪しい場所にある、しかしながら、セスナで飛ぶなら、そこからしかないらしい空港から、セスナは飛び立った。

 コンゴ河が見えなくなると、パッチ状の森林とサバンナが見えてくる。アフリカの空を飛んでいるんだよなあ。その昔、南部アフリカのザンビアで、一年間仕事をしていたことがある。ザンビアとジンバブエの国境には、世界三大滝の一つヴィクトリア・フォールズがあり、その滝を見るために、観光でセスナに乗って以来の、「アフリカでセスナ」経験、である。アフリカでセスナというと、大好きなデンマークの作家アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセンと同じ人物)の、”Out of Africa”が映画化された時、メリル・ストリープ演じるカレンが恋人の乗るセスナを見送っていた場面を思い出す。 “アフリカそのもののように手なずけることも手に入れることもできなかった”恋人デニスはロバート・レッドフォードが演じていて、うっとりするくらい素敵だった。それにしても、”Out of Africa”をなぜ「愛と哀しみの果て」などという邦名にしてしまったのか、未だに理解しがたい。ともあれ、私はアフリカの空の上にいて、ボノボのいる森に向かっている。人生にこういう時間が訪れるんだよなあ、という思いは、恋するカレンのごとく。

 ほんの一時間半ほどのフライトで、Mbaliにほど近いマレボの空港へ高度を下げて行く。しかし、行く手に空港のようなものは全く見えない。それらしき建物もない。あるはずがない。なぜならマレボの「空港」にあるのは、セスナが降りられるだけの、それなりの長さのある「滑走路」のみだからだ。2本の車輪分だけの草が刈ってあるのがマレボ空港なのである。のちに聞くところによると、数年前に、京大の隊がMbaliに通うようになってから、隊長ご自身がアフリカの皆様とともに、草を刈って滑走路を作ったとか。再度言うが、空港らしき建物は決して、ない。周囲に人影もない。村もない。着いたけれど、滑走路とセスナと我々しかいない。誰か迎えに来てくれないと、どこに行ったらいいのかもわからない。Middle of nowhere. セスナから降りた我々は呆然と滑走路に立ち尽くすのであった。

 セスナが降りるとき、それなりの音がする。我々を迎えに来るべき人たちは、その音を聞いて、「あ、そろそろ、飛行機着いたんだ〜」と思って、「空港」に向かえにいくらしい。
呆然としている我々の周りに、三三五五、子供達がどこからともなく、現れ始めた、と思うと、遠くにエンジン音がする。バギーに乗った隊長が見えてきて、直比さんも車で現れた。いや、もう、みんなホッとしました。どんなシチュエーションでお迎えが現れるのか、全員、想像できていなかったから。
マレボ「空港」の滑走路に立つレイモンド先生
 このサポーター専用ページのトップページ、連載バリ・ババ・ミサトの目次にある「隊長と、現地の子供達と、色眼鏡かけたチャイニーズマダムふうの私の写真」はこの、到着時のものである。その写真の子供達と我々の視線の先には、セスナがある。私たちが乗ってきて、帰りには、すでにMbaliに滞在して今からキンシャサに戻る、美穂さんや共同通信の井田さんらを乗せて飛び立つ、トンボ帰りのセスナである。美穂さんとは、このマレボ空港で一瞬会っただけで入れ違いとなった。連載第二回に書いた喫茶店スメルで会った時とは別人のような、ワイルドにアフリカ焼けして、フォトグラファー然、とした美穂さんは、それはそれはかっこよかった。そのワイルドさのかなりの部分は、森でボノボを追った日々によるのみではなく、河を遡ったボートの旅に由来するものかもしれない、と美穂さんの連載を読みながら、今になって思うのである。
三砂 ちづる
バリ・ババ・ミサトのバックナンバーはこちら

2017年12月28日更新
関連キーワード:アフリカ、ボノボ、海外、おもしろい