乗りもの。電車とかバスとか飛行機とか船とか。普通は、「定期便」というのがあり、時刻表があり、到着地があり、決まった値段の切符があって、そういうものを使って移動するのである。この連載のフィールド地、ボノボの棲まうMbaliにそのような「定期便」があるはずもない。よって、自分たちで船やら車やら飛行機やらチャーターして、現地に向かう。美穂さんの連載で、何度もすでにコンゴ川をさかのぼる船の話やビデオクリップを見ていただいていることと思う。一緒に連載をしている直比さんと美穂さん、そしてモンキーセンター園長(隊長)らは、2016年夏、謎の大きな荷物を積んで、船をチャーターした。その船だとまる2昼夜かかるという道のりであるが、セスナをチャーターすれば一時間半で着く。定期便がないとはいえ、コンゴDRCの首都キンシャサから、一時間半セスナに乗れば、ボノボのいる森の近くまで着くことができる。
というか、大都市キンシャサからそれくらいの距離しか離れていないところにボノボがいる、ということが、どれほどの驚きだったことか、ということは、すでにモンキーセンターの別のページに書かれている。そのような「セスナで一時間半」で着けるような所だからこそ、環境保全の努力が必要になってくるし、また、野生動物を見て、しかも環境保全に役立ちたい、と思っておられるような方を対象にする「エコツーリズム」の提案も可能になってくるわけで、この連載もまさに、そういうボノボの保護を目的として始まったものなのである。
2016年8月の末、キンシャサの街はずれの空港をパイロットを入れて6人を乗せたセスナが飛び立った。キンシャサがコンゴ河沿いの大都市であることは空から見るとすぐにわかる。一度迷い込んだら二度とはでてこれないように見える、店やら住宅やらの密集地域やら、大量の車やらの間に、女性たちのカラフルなビランバが色を添えているのが見える。
ビランバというのはコンゴのストリート言語、リンガラ語で「衣服そのもの」のことらしいが、女性の衣装を指して言うことが多いようだ。コンゴDRCの女性たちは実におしゃれで、色彩感覚も布の使い方も絶妙で、本当にかっこいい。
女たちのビランバだけでなく、男たちもかっこいいのは、日本でも話題になった「サプール」を見ていてもわかることだろう。5、60年代のパリファッションやブランドものを中心に、実にカラフルな色の衣装を着こなすコンゴ共和国とコンゴDRCの男たちはうっとりするほど粋なのであり、さすが、フランス語圏アフリカは、ファッションセンスの磨かれないイギリスに植民地化されていた英語圏アフリカとはそのファッション的発展が違いすぎる、とも思ったりする。
密集した家屋から、船がたくさん見えてくるようになると、もうコンゴ河の上、そして向こう岸は、コンゴ共和国のブラザビル。そう、旧ザイールであるコンゴDRCの首都キンシャサと、コンゴ共和国の首都ブラザビルはコンゴ河を挟んで両岸にある。ということは、大国コンゴDRCの首都は、広大な面積の国のすごく端っこにある、ということである。こんなことは、普通日本にいてはよくわからない。この連載を主催する岡安直比さんは、この両岸をゴリラやボノボを追いながら、よく往復なさってきた方なわけであるが、キンシャサ訛りのリンガラ語などをブラザビルではなすと、「コワい」人、と思われてしまったりするらしいが、そのあたりは、直比さんの連載でいろいろ書いていただくこととしようか。
飛び立ったセスナは、Mbali地区のはずれにあるMalebo空港へと向かうのである。
(三砂 ちづる)