三魔女、テケ王国を行く。

灯り
 Mbali では地元自然保護団体ボー・モン・トゥールのフィールドステーションに寝泊りしていたことは、以前にちらっと書いた。ボノボを森で追うフィールドワークをするために、寝泊りしているところ、というとどんなところを想像なさるだろう。水も電気もプライバシーもない、ダイ・ハードな環境を想像なさるかもしれないが、このフィールドステーションは既に皆様のご努力で、よく整備されており、なかなか快適に暮らすことができるようになっている。
 もちろん、水道も電気もない。しかし、水はきれいな湧水が少し離れたところにあり、そこから運んでもらうようになっており、安心して飲むことができる。水のタンクを取り付けたシャワーと、なんと、水洗トイレまでできていて、こちらも水を運んでくださる方があって、毎日快適に使える。鍵をかけられるドアのついた部屋がいくつかと、ダイニングルームのある場所がメインの建物(小屋ですが)で、実に美味しい料理を作ってくださる料理人の方と、コンゴ川を遡る、美穂さん説明の船に乗せた食材と、料理人さんに、ものすごく的確なコマンドを与える「物事を決める基準はおもしろいか、おいしいかだけ」とおっしゃる百戦錬磨な直比さんがおられるので、食べることに不自由もない。たくさんの人の力で、外からやってきた外国人がすぐに動けるように、機能していることには、関係者の皆様のご尽力が本当に伺われるのだ。

 美穂さんや私が泊まっていた建物は(まあ、小屋ですが)、仕切りがあり、カーテンをつけた「部屋」もいくつかあって、簡単なベッドとマットレスと棚があり、隣の人のいびきは当然、筒抜けで聞こえるけれど、プライバシーのある環境で寝たり着替えたりできる。
 電気もないのだがモーターで動く発電機やら、ソーラーパネルのバッテリーの充電器やら、いろいろあるから、メインの建物は明かりをつけられる。外に出てトイレに行く時や自分の部屋では、懐中電灯か、頭につけるヘッドライトがあれば良いのである。

 ということで、使いすぎたのだ、ヘッドライト。あると、使っちゃうのである。あとさき見ずに。水道から水がいつも出る、みたいに。コンビニに行けば、いつもタバコも牛乳も買える、みたいに。

 朝3時半に起き、ダイニングルームに寝ぼけ眼で集まり、コーヒーを飲んだりバナナを食べたり、お弁当を詰めたりしながら、森の中、昨夜ボノボがベッドを作ったあたりの場所まで出かける準備をする。朝4時半に車でトラッカーの皆様をピックアップしながら走ることしばし。森の入り口から、真っ暗な森にトラッカーの方を前に、歩き始める。分け入る森は真っ暗である。真っ暗って、当たり前だ。日が出ていないのだ、まだ。

 頼りになるのは、ヘッドライトだけ。足元は明かりがないと何も見えないし、もちろん足元が見えないと危ない。ヘッドライトを確かに持っているのに、フィールドステーションで「使いすぎた」ため、なんと、森に入り始めてすぐ、私のヘッドライトはだんだんほのかな消え入りそうな灯りになってしまった。直比さんに「足元見えないから危ないよ、替えの電池ある?」と聞かれる。もう一つライトあるから大丈夫、といったものの、そちらも、なんと、ほどなく、消えゆく仏壇のろうそく程度の明るさに・・・。「初めて」森に入り、足元も見えないで、歩けるはずもない。全員に止まってもらって、隊長に替えの電池をいただく。ありがとうございます。足元が見えるって素晴らしい。

 だんだん明るくなってきて、ライトもいらなくなった頃、森でボノボを見た。文字にすればたったこれだけ。どれだけの歴史と時間と距離を経て、私はあなたに会っているのか。中年過ぎた、メスのボノボ。森の中に立ち尽くして、震えるような思い。ボノボのいる森に。森にいるボノボに。そこにいる、私を連れてきてくれた人たちに。
三砂 ちづる
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2018年2月14日更新
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