三魔女、テケ王国を行く。

ボミゾリ
 中村美穂さんが「出す」話を書き、Mbaliのベースキャンプの見事な人力水洗トイレについて写真やビデオを載せてくださったので、Mbaliでの生活についてちょっと知っていただけたかと思う。美穂さんは、その回で、普通は、トイレはある、と言っても、2、3分藪の中を入って行って、ヨシズみたいなのでかこってあって、二本板が渡してあるようなトイレのことも多いのだけど・・・と書いておられたが、広域調査で出かけたボミゾリのトイレはまさにそういうトイレだった。私たちがテントを張っているところから歩いて数分、家の途切れたはずれに、トイレは、ある。周りが囲ってあって、板が渡してある。穴が深く掘ってあって、落ちたりしないように、注意深く使う。でもね、って、直比さんが言う。あのトイレ、この間、ゾウが壊したから作り直したんだってさ。ゾウ?ゾウが来て壊すの?会いたくないなあ。トイレで。ゾウに・・・。

 森にいるゾウは、大変凶暴らしい。人間が寄ってたかって象牙を取るようなことをやってしまっているから、ゾウとしてはすべての人間は敵であり、森の人間を見ると襲うのだという。「生臭い匂いがするから、ゾウが近くに来ると、わかるんだよね」と、直比さんが言う。森の中で、わりと新しい足跡を見つけて、「会いたくないなあ、ゾウ」と、直比さんが言う。会いたくない、私も。
とりわけトイレを壊しにきたゾウには・・・。
 Mbali のベースキャンプから、具体的に調査に行くのは、カラ村とかペル村で、その周辺の森のボノボを追う。でももうちょっと遠いところのボノボを探しに行くことになることもあって、そういうのを広域調査という。広域調査に出かける時は、食糧も持って行く。鶏肉、持った?と直比さんが言う。前回の直比さんの連載に登場した名コック、ジョノロは「マダム、もちろん」と返事をして車の座席の下をポン、と叩く。ニワトリが「コケー!コケー!」と鳴く。冷蔵設備なんてないから、生きたままのニワトリが、食材として運ばれる。
 キャッサバを作る畑の出先小屋になっているような、家が数件ある集落に着き、テントを張ることなる。集落の脇に土俵のようにサークル状になった土地があり、私たちがテントを張るために子供たちが5、6人やってきて、簡単に掃除をしてくれる。ここにはMbali のような、家やトイレやシャワーなどというインフラはない。一人ひとりテントを張って、寝るべき場所を作る。
 美穂さんから借りていたテントを張って、夜は寝るのだけれど、とにかくゲジゲジが多いの。いくらテントの入り口をきっちり閉めても、どこからかゲジゲジが入ってきて、シュラフやらテントの内側やら、にいっぱいいて、シュラフにもぐっても、落ちてくる。一晩目は、ゲジゲジとの闘いに明け暮れ、ほとんど眠れなかった。
 でも、人間って慣れる。森を歩いた後の二日目、ゲジゲジは変わらず跋扈していたが、とにかく疲れていたので、ゲジゲジが何なの?ゲジゲジの一匹や二匹(じゃなくて、二十匹や三十匹なのだが)、の気分であった。私は泥のようにテントで眠り、ゲジゲジは全く気にならなかった。朝起きて、シュラフをたたんでいたら、もう生きてないゲジゲジがいっぱいいた。寝てる間につぶしたのか。
いやあ、何にでも、慣れるなあ、ほんと。
 この集落は、ペル村やカラ村のようなバテケ(bateke:テケの人たち)の村ではない。ここの人たちはバボマ(baboma:ボマの人たち)なのだという。夜になるとバボマの子供たちは、10人くらい集まって、歓迎の歌と踊りを披露してくれた。プラスチックのバケツをふせて、太鼓のように叩き、空きカンも叩いて、リズムをとり、歌い、踊る。それはもう、あまりに完璧なハーモニーとリズムで、そのまま日本の舞台にあげたいようなレベルで、ただうっとり嬉しくなってしまう。ゾウに会わずにトイレも無事済ませ、アフリカの夜は更ける。ゲジゲジをものともせず、世界に抱かれて眠るのである。
三砂 ちづる
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2018年5月2日更新
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