三魔女、テケ王国を行く。

「共に喰らう」の立役者
 Mbali Mbaba Manzai...の続編...?
前回のビデオクリップの23秒あたりで、ヤギ追いの最後尾を走り抜けていく、シマシマ模様のTシャツのおじさん。どこか見覚えありませんか??
彼こそがMbaliの「レレレのおじさん」こと、われらが料理人のMr. ジョノロ。箒の代わりに鍋と包丁を持ち、実に美味しいご飯を作ってくれる調査隊の名脇役。

左がジョノロ料理長。やっと“捕った”ヤギを前に、解体が終わるまで一休み
 で、何がManzaiかと言えば、言わずと知れた彼の立ち振る舞い。細身でなで肩で、赤塚不二夫氏の天才バカボンの、「レレレのおじさん」そのものの風貌で、「ジョノロ!」と呼べば「ウィー、ママ」と、右へ左へ風にそよぐように走ってくる。“揉み手”以外の何物でもない仕草をしながら、コマンドを待つ姿に笑いがこみ上げてくる。

 なんてジョークにしていられるのは、彼の頭の回転と気配りがあればこそ。料理長と紹介したが、実際はMMTファームの家事賄い一切を仕切り、アシスタントを指揮して掃除から水汲みから滞りなく進むよう、目を光らせるのも役割である。

 これが、ちづるさんもしみじみ書いているように、簡単そうで簡単じゃない。調査隊は人数が多いうえに、各人が各人の研究テーマと都合でバラバラ出入りするし、いちいち対応のすべてを人力でこなすのだ。一筋縄ではいかない場面で、現場監督のプロ意識の違いがにじみ出る。一人頭一日いくらの手間賃だから、人数と実入りは比例するが、人手も増やさなきゃならないし、さじ加減は腕の見せ所。なんせ人手というのは、機械と違ってサボるし文句言うし、おまけにMMM隊は、お客の方までリンガラ語でまくしたてる…。

 ジョノロは八面六臂の活躍で、食材調達にも走り回る。大変なのは前回書いたタンパク源確保で、20キロほど離れた市場のあるンコ(Nkoo)村までチャリで出張って、買い出しにも余念がない。
 そして毎日過不足なく、朝(3時)、昼(ボノボ次第で12時もあれば14時もある…)、晩(日が暮れたら)と、宮沢賢治ばりの時間感覚の、私たちの食卓を整えてくれる。水道も、冷蔵庫も、ガスコンロもない中で。

 美穂さんには申し訳なかったのだが、MMMの旅の前半、彼はクリストフに雇われて、よそへ行ってしまっていた。どうして、客がいるのに料理長がいないんだ、という素朴な疑問に、
「ファームのマネージャーに無理やり行かされた」
「クリストフの滞在長いから行くって言ったのはお前だ」
という、よくある言い争いが持ち込まれた。でも掃除も水汲みも、留守番のジョエルでは手に負えてなくて、後半、人数が増える場面でジョノロが戻り、MMM隊の“共食月間”は事なきを得たのである(済まん、クリストフ!)。

 ボノボを観たいと思ったら、近くても遠路はるばる出かけなきゃならないMbali。長い道中には、初めての風景、新しい出会い、ワクワクすることも多いけれど、一番面白いのは、生きていることを毎回実感できる「飲み食い」。その頂点は、勘と経験で手に入れた食材を、もっともふさわしい味付けで“ありがた~く”いただくときに、染み渡る満足感。屋久島時代から続くこれしかない。

 美穂さんもちづるさんも、場所は違えど、そういう本能に響くフィールド経験豊富だから、食べるの大好きなのだろう。ジョノロは得難い人材で、Mbaliボノボ・エコツアーの“希望の星”の一人である。想い出に残るMbaliでの共食を、これからも独特の「レレレ」で演出し続けてもらいたい!
Djonoloの仕事場。彼の名もリンガラの習いで頭に読まないDがつく(美穂さん撮影)
 本来、人間が喰らうという行為は貪欲なものだ。私が実践している生物多様性の保全も、「いかに人間を食わせていくか」が究極の命題である。自分たちの生き残りのためにせっせと動物を守る。さもなくば、貪欲な我々は地球上の喰えるものを喰い尽して、きっと“共食(ともぐい)”を始めるのだ。人類進化論なんて因果な研究をかじった身には、その行く末が目に浮かぶ...。美穂さんなんて、その予兆ともいうべき!?現場を、番組にまでしちゃったもんね。すごい!
岡安 直比
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2018年4月9日更新
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